いつ治るか分からない恐怖

「この病気はいつ治って、自分はいつ働けるようになるんだろう・・。」

この恐怖に近い不安感は、メンタル疾患に罹ってしまった多くの人に共感してもらえるだろう。実際、メンタル疾患の最も恐ろしいことは、その本人の社会的・経済的リスクだ。

病気の治療中にも生活していくためにはお金がいる。以前のエントリーでも書いたように、「治ったとしてもすぐに働けるわけではない」ので、療養中の生活にもお金がかかる。健康保険で傷病手当金などの給付を受けられたらマシなほうで、受けられない事情があったり、扶養家族が多ければ貯金を切り崩したりするケースもあるはずだ。

メンタル疾患では、この経済的リスクに加えて、「早く復帰しないと仕事がなくなるかも」とか「会社からの評価が下がるかも」などの社会的リスクも背負わなければならない。僕の考えでは実際のリスクよりも本人の思い込みによる「不安感の暴走」のほうが恐ろしいのだが。いずれにせよ、そのリスクや不安感によって「焦って復職して再発」を繰り返したり、最悪のケースでは「仕事を一切休まずに症状が悪化」したりする。

後者の「休まない」ケースというのは、特に経営者に多いのではないだろうか。「休まない」というよりは「休めない」。或いは「休めない」と本人が思い込んでいる。

 

「起業家のうつ」問題

自分がこういった問題に関心を持っていることもあってか、最近「起業家のうつ」に関する情報をよくネットで見るようになった。最近ではイーロン・マスクが躁うつ傾向をカミングアウトしている。また、僕自身がメンタル疾患の経験を公表しているので、「実は私も・・」とひっそり打ち明けてくれる経営者もいる。

起業家・経営者だけに限らず、ベンチャー企業やスタートアップで働くビジネスパーソンもハードワークによってメンタル疾患を患うケースが多い。設立されたばかりのスタートアップでは生き残りをかけて熾烈な競争があるし、キャッシュアウトする前に事業を軌道に乗せなければならないので、そこで働く従業員にも心的負荷が多分にかかる。

起業家の多くはイノベーションによって社会をより良く変えていくためにリスクをとって起業し、高い志をもって働いている。公務員や大企業のようには安定していないスタートアップを職場として選択している従業員も少なからずそうだろう。

しかし、崇高な志とチャレンジ精神をもってイノベーションを起こそうと必死に働いている人ほど、メンタル疾患にかかるリスクが高まるとはなんとも皮肉な話だ。特に起業家ともなれば借金を抱えていることもあるので、経済的リスクも人一倍背負っている。

僕に相談を寄せてくれた起業家の中には、「メンタル疾患になって働ける状態ではないが、借金もあるし妻子もいるので働かざるを得ない。ブログを読んで治療を優先すべきと頭では理解しているが、経済的に難しい」という悩みを抱えている人もいた。

このメッセージを読んでこの起業家の置かれている状況を想像して、長いあいだ茫然としてしまった。どうしようもない無力感。僕にはこの人にかけてあげられる言葉さえ持っていない。彼にどんなアドバイスをすればいいのか・・?

 

経済的リスクのない療養生活は可能か?

正直に告白すると、僕は病気から回復して次の事業プランについて考えていた際、メンタルヘルス関連の事業はやらないつもりだった。せっかく元気になったのに病気だった頃の自分にとらわれたくなかったからだ。「病気だった頃の自分をひきずってその後の人生を生きたくない」という抵抗感だ。

しかし、ブログを開設して以来、多くの方からメッセージや相談を受けるようになって、今となっては「これはもう、やるしかないな」と思うようになった。「使命感」と言い切れるほど崇高ではなくて、もっと感情的な、衝動にも近いエネルギーに背中を押されている感覚だ。

そんなエネルギーが意図せず湧いてきて、「メンタル疾患になった起業家やベンチャー人材が、社会的・経済的リスクを負わずに療養できる仕組みは何か?」という命題を日常的に考えるようになった。そして今では農業がこの課題解決の突破口になり得ると確信している。

 

地方の農的暮らしで療養する

この着想を得たのは、「地方のアセットを駆使して起業のバーンレートをいかに下げるか」というテーマで仲間内でブレストをしているときだった(このテーマは次の記事で書く予定)。地方に行けば空き家をかなり廉価で借りられて、農業をしながら自給自足すれば、限りなく創業メンバーの人件費を下げられるのではないかと。そして、「この仕組はメンタル疾患の療養生活にも応用できるよね!」という発想に至ったわけだ。

まず、メンタル疾患を患った起業家やベンチャー人材に地方の農村に一定期間滞在してもらう。そこに安く借りた空き家を「療養シェアハウス」として用意。複数のメンバーで共同生活を行う。なんだったら家族そろって引っ越してきてもらってもいい。日中は近くの田畑で農作業に従事。日光を浴びて汗をかいたら、夜もぐっすり眠れるだろう。一定期間が経過して元気になってきたら、復職のためのリワークプログラムに参加してもらう。理念に共感してもらった企業から受託した仕事など、極力負荷の少ないPC作業をやってもらう。そして、自信をもって復職できるメンタリティーまで回復したら、復職なり社会復帰なりのサポートを施す。こんな療養プログラムの構想を描いている。

 

プログラム実施にあたっての課題

まだ構想段階なので、始めてみたら予想外の問題もたくさん発生するだろう。始めてもいない現時点でも、いくつか越えるべきハードルがある。

 

自給自足とはいっても、生活にお金は必要でしょ?

当然お金も必要。なので、自分たちが食べる食糧以外にも収益性の高い作物を栽培・販売して生活費に充てる必要がある。寄付金を集める必要があるかもしれないし、持続可能で且つ拡張可能な仕組みを考えていかなければならない。あくまでも農業ド素人の発想ではあるが、これも一つの経営なので、継続して取り組めば何事も成せると信じている。

 

どれぐらいの期間滞在する必要があるの?

当初は、「寛解の診断を受けているけど復職までには至っていない段階」の人から受け入れをして、「リワーク」のみに焦点を当てることでメソッドの確立を図りたい。どれぐらいの期間、どういったプログラムに従事すれば、再発率を低く抑えられるかはさすがにやってみないと分からない。

 

そもそも効果はあるの?

「このプログラムに効果がある!」なんて現時点で言えるわけもない。ただひとつ約束できるとしたら「実績を出すために僕自身が努力すること」だ。少なくとも、寛解の診断を受けた後のリワークに関しては、他施設の事例を勉強できるのでプログラムを構築しやすいとは思う。一方で、寛解前の治療効果を出すまで昇華できるかに関しては、一生を懸けてもたどり着けるかどうかだろう。当面、寛解前の患者を受け入れることはないと思うが、将来的には取り組んでみる価値は大いにある。

 

元気になったら農村から再チャレンジ!

取らぬ狸の・・ではあるが、もしこのプログラムで元気になってくれたら、その農村から新たな起業にチャレンジする起業インフラも整えておきたい。

僕がメッセージをもらうメンタル疾患にかかった起業家の多くは、「治ったらまたチャレンジしたい!」と口を揃えて言っている。病気になるほど辛い経験をしたのに、それでもまた元気になったら挑戦したい・・。この生粋のチャレンジャー達に、今度は家族・健康・生活を担保した上でチャレンジするインフラを提供したい。次の記事では、地方におけるベーシックインカムとしての農業について書いていく。

 

次の記事【起業家のためのベーシックインカムとしての農業】

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著者プロフィール

中村 義之
株式会社YOUTURN代表。地方のアセットを活かして持続可能なライフスタイルとイノベーションを生みだすための起業インフラを創出中。メイン事業はU・Iターン特化の転職エージェント。地方のスタートアップで活躍したい人材募集中。