#2 鎌倉投信株式会社 新井和宏氏による基調講演(後編)

 

お金はなぜお金なのか?

もう一つ、時代の変化の話をしましょう。私は最近、小学生から高校生までを対象に「お金の授業」を行っています。そこで話しているのは、「お金はなぜお金なのか」ということです。

授業の中で、子どもたちに2000円札を見せるのですが、子どもたちは2000円札のことを知らないですよね。そこで、「これはお金ですか?」って問いかけるんです。では、それがお金だとして、この紙幣の製造原価は大体20円ぐらいです。20円で作られるものをなぜ2000円だと思うのか、皆さんに考えて欲しいと思っています。

お金とは一体何なのかということを考えないと、今の「仮想通貨」や「地域通貨」とは何なのかということが分からなくなってしまいます。

つまり、お金とは何かといいますと、みなさんが「それがお金だ」と信じていることです。それが一つ。みなさんの中で、「それが1000円」「これが2000円」という共通認識ができればいいわけです。もう一つは、「使えること」です。そのお金を使って衣食住を賄えるということが要件として大事なんです。お金は使えないと意味がないということですね。

 

テクノロジーとともに変わりゆくお金の定義

それと、これも子どもたちに説明しているのですが、「擬似的なお金」というものもあるんですね。ポイントやマイルなどがそれに当たります。みなさん、ポイントやマイルを使用できる範囲が限定されなくなる世界って想像できますか?もしそうなったとしたら、生きていく上で日本円を使う必要がなくなりますね。AmazonやGoogleが考えている「ベーシック・インカム」の構想はまさにそんな世界です。ベーシック・インカムを提供する代わりに、自社のサービスですべての生活を賄ってもらう。

そうすると、そもそも「国」とは何か、「納税」とは何か、という議論に発展していきます。ですから、お金の定義をしっかり解釈していないと、お金が今後どのように変化していくかが分からなくなるんです。子どもたちにそういった話をしておかないと、「将来自分たちが使うお金はどれだろうか」と悩むことになるはずです。現状、地域通貨もビットコインなどの仮想通貨も、どちらにも欠点はありますが、今後テクノロジーで可能になる範囲は広がっていきます。その時、自分たちが幸せに生きていくための土台となるものが変化していくことを考えてもらいたいと思っています。

 

「見えない資産」が可視化される社会

先ほどの話に戻りますが、企業が活動する中で、ベースとなるのはお金ですね。ただ、これまでの資本主義は過度にお金に依存しすぎていました。お金は見えるし、計算もできる。つまり、「見える資産」に偏重していた経済です。一方で、「見えない資産」とは何かというと、企業の社風や文化、社員のモチベーションなどです。これまで「見える資産」に偏重していた経済の中でも、経営者のみなさんは「見えない資産」が最も大切であることをちゃんと認識しているんです。ただ、「見えない資産」が曖昧で評価できないことが問題だったわけです。

これからは、企業の社会性や社員の幸福度などが可視化される時代になるので、そういったものを評価していく社会になっていくことは間違いありません。私はリーマンショックの前までは金融工学の最先端をやってきたのですが、リーマンショックを境に「お金に換算できないものに最も価値がある」と気づいて仕事を辞めました。その後、鎌倉投信を起業して、企業の社風や文化は現場に行かないと分からないと思い、10年間活動をしてきました。でも、これからの10年は間違いないなく、これらを数値化するフェーズになるはずです。

 

企業の社会性と社員幸福度が評価される時代

なぜ間違いないかというと、まず一つは、2016年12月にこれまで銀行の利益になっていた休眠口座の預金を、全て回収して社会のために使うことになりました。そこで、その投資が「本当に社会の役に立っているのか」を評価しなければならなくなり、私が総務省で発表して、ようやく議論が始まったわけです。その評価手法はSROI(Social Return On Investment:社会的投資利益率)というのですが、その数値化の研究に休眠口座500億円の一部が使われるようになるわけです。お金がついて、AIも活用すれば、急速に発展していきますね。そうなると、企業の社会性がかなり可視化されていくはずです。

もう一つは、幸福です。社員の皆さんの幸福度が可視化されていきます。今、大企業は社員満足度よりも社員幸福度に高い関心を持っています。幸福学では、幸福度というのは年収に比例する部分もありますが、その先まで行くと横ばいになることが分かっています。年収を増やしてもその先は幸福度が上がらないわけですよ。そこで、幸福度を上げるために、副業や週3勤務など多様な働き方を選べるようにしていく。大企業がそちらに関心を寄せるのは単純な理由で、Win Winだからですよ。企業は年収を上げる必要がなく、社員は自由で多様な働き方を選択できる。Win Winな関係だと、お互いが「じゃあ、やりましょう」ということで、一気に進むんですよ。

 

テクノロジーで「幸福度」を測定できる

こういうお話をすると「幸福度ってどうやって測るの?」と気になりますよね。オムロンさんが「笑顔認証システム」というものを開発しています。みなさんの笑顔の質を個々に測ることができるんですよ。ドイツでは既に導入事例があって、街頭に設置しているシステムがしかめっ面をしている人を映し出すので、本人は「笑わなきゃ」と思うんですね。そうすると、防犯に繋がります。みんながニコニコして仲良くコミュニケーションしているところで犯罪はしづらいわけですよね。これと同じようなことが起きてくることを想像して下さい。

また、早ければ今年から実用化されるのですが、例えば2つのタワーマンションがあったとして、2つとも同じ立地で駅からも同じ距離、日当たりも同じ、不動産価値が同一だとしましょう。ただ、一方のタワーマンションでは、誰も挨拶をせず、ゴミも拾わない、雰囲気の悪いマンション。もう一方のタワーマンションでは、みんな挨拶もするし、ゴミも拾う。どちらがコミュニティ価値が高いマンションか、一発で分かりますね。今まで不動産屋さんが「あそこはちょっとね」と言っていたことが可視化されていくわけです。

 

マネーの定義が変われば社会が変わる

ぜひ覚えておいて頂きたいのは、そういったテクノロジーで社会はまさに変わろうとしています。その中で自分たちは何をやるべきかを考えて頂きたい。そして、その先に僕らが考えているものは「マネー」そのものです。僕のそもそもの疑問は、NPOなどの社会の役に立っている人たちが食べていけないという状況です。社会に価値を提供しているのに食べていけないというのは、何が問題かというと、今の資本主義では限界があるということです。

つまり、お金になるかならないかという価値観で今の経済の仕組みは成立していますが、マネーの定義そのものが変われば、仕組みも変わるんですよ。社会の役に立っている方々にマネーが落ちるような仕組みを作ればいいわけです。だから、僕はマネーの定義を変えたい。マネーの定義を変えれば、社会は変わるんです。

 

様々なお金が共存する時代

そういう社会が実現したら、ボランティアという概念はこの世の中から消えるでしょう。できるかどうかの話をしているわけではありません。テクノロジーがそれを満たしてくれるので、あとは僕らがどう使うか、どう変えていくのかということが求められているんです。

もしくは、現在のような投機的なお金だけでなく、様々なお金や通貨が共存する時代を迎えるわけですね。もうそろそろ次のステージに行かなければいけないと僕は思っていて、いよいよその入口に立ったかなと思っています。

 

多様な選択肢が社会を豊かにする

そう考えていけば、みなさん様々なアイディアが出てきますよね。僕が言っているのはたまたま1個です。豊かになっていくためには、一個ではなく多様な選択肢を持っていたほうがいいですよね。「これしかない」という状況がマズいと思うんです。それに縛られて生きていくのではなくて、自分たちが生きたい生き方で生きていく。そういった話の流れで、これから福岡エイティーズの4社の方々にご登壇頂くことになります。

エイティーズのみなさんと私には共通点がありまして、それは、申(さる)年ということなんですね。私は今年でちょうど50歳なのですが、彼らは今年38歳の経営者たちです。ひと回り下の可愛いモンキーズたちに自分は何ができるだろうかということで、「こういう会を開きながら一緒により豊かな社会にしていこう」と、この勉強会を立ち上げた次第です。

 

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著者プロフィール

中村 義之
株式会社YOUTURN代表。地方のアセットを活かして持続可能なライフスタイルとイノベーションを生みだすための起業インフラを創出中。メイン事業はU・Iターン特化の転職エージェント。地方のスタートアップで活躍したい人材募集中。