#4 パネルディスカッション(後編)鎌倉投信新井氏×福岡エイティーズ

 

「いい会社」は美意識が高い

時津: 素敵な話ですね。新井さんは「いい会社をふやしましょう」というNPO法人もやられていますよね。色々な会社を見て回っておられるので、「何がいい会社の定義なんだ」というのを、みんなで共有できたらいいなと思います。私たち経営者や幹部の方、入社したての方など色々な方が、「いい会社」をつくるということに関して、それぞれの立場で何ができるのかを教えて頂きたいですね。

新井: いいですね、有難うございます。「いい会社」というのは、基本的に社会が決めるものだと僕は思っています。では、「社会」とは何かというと、その会社に接するステークホルダーなんですよね。だから、全てのステークホルダーから「あの会社はいい会社だ」って言われる会社が「いい会社」に決まっているんですよ。そのステークホルダーの対象は、経営者も社員も、関わる人すべてです。

いい会社だと言われる要素って一体なんだろうと思って色々な会社を見てきましたが、共通するのは「美意識」の高さなんですよね。生きるとは何か、働くとは何か、そういったものを考えて行動している人間力の高さに裏付けされた、美意識の高さの表れです。

悲しい会社っていうのはその逆です。美意識の高さの表れがなくて、自己主張だけの社員ばかりになるんですよ。そういう会社は「いい会社」ではないですよね。

そうではなくて、自分たちがここで活動できているのは、地域の人たちがいるおかげだ。この地球があるからこそ僕らは活動できている。僕らにとって、「これが美しい」、「これが僕たちらしい」という価値のレベルが高いんです。

そこまで行くと、指示・命令なんて一つも要らないですよ。みんな自主的に動くようになるんです。だから、最終的には美意識です。その人たちが美しいと思うレベルの高さによって、いい会社のレベルは決まっているなと思います。

 

「いい会社」は大体異常値

井上: 新井さんに質問です。伊那食品さんは朝の清掃活動をみんなで30分かけてやっています。「すごいな」と思うんですが、明日から実施するイメージがつきません。いい会社を目指すという気持ちが大切だと思っているので、身近なところから少しずつ始めてそれを拡大していこうと思っているんですが、何かコツとかあるんでしょうか?

新井: コツなんてないですね。「やる」と決めることです。やると決めて、毎日やる。つまり、決めることが大事なんです。始めないと始まらないですからね。すぐに結果が出ないものがあることも間違いないけれども、時間をかけてしかつくれないものでもあるんですよね。時間をかけてしかつくれないものだからこそ、参入障壁がものすごく高いわけですよ。

井上: そうですね、先ほど新井さんのお話にあったように、定量化できるものは分かりやすいからそれが指標になりがちです。だから、自分たちが目指す、顧客満足度や社員の働きがいを、定量化して分かりやすい物差しをつくる必要があると考えています。僕たちの世代はデジタルに強いので、上の世代とはまた違うアプローチで目指せるんじゃないかなと思っています。

新井: 僕がずっと統計学をやってきて思うのは、数字には最初から限界があるんです。「いい会社」って普通の企業の正規分布からは大体外れ値なんです。そんな会社はあり得ない。鎌倉投信も、普通の投資会社からしたらあり得ないことをやっているわけです。「いい会社」って、大体異常値なんですよ。外れ値だから、統計処理できないんです。処理できないもののほうが美しくて、素晴らしくて、目指すべきって、訳が分からないですよね。つまり、数字でできることは限られている。でも、使えるところには使うということです。数字で何でもできるっていうのはただの幻想ですよ。

 

「いい会社」かどうかは周りが決める

時津: 鎌倉投信さんは「いい会社」にしか投資をしないということで、私も新井さんから投資を受ける前に何度もお会いさせて頂いたのですが、おそらく私が気づかない色々なフィルターがあったんだろうと思うんです。御社に投資していただけたということは、基本的にホープは「いい会社」ってことになるんですか?

新井: それはね、勘違いしないで頂きたいんだけど(笑)。

(会場 笑)

新井: 何が言いたいかというと単純で、僕らがやっている行為は「いい会社をふやしましょう」なんですよ。「いい会社に投資しましょう」ではないんですよ。子どもたちのために「いい会社」を増やしていかなければいけないと思っているので、御社が今の時点で完璧な会社だとは思っていないということです。「いいところもある会社」ということです(笑)。

時津: 逆説的なんですけど、13年間経営をやってきて、「いい会社になりたい」と思ったことはないんですよ。「いい会社」っていうのはすごく解釈が難しい言葉ですよね。「私はいい会社をつくりたいので投資して下さい」っていうベンチャー企業がいたら、自分は絶対に投資しないですね。

新井: それはそうだね(笑)。「うちはいい会社です」っていう会社には100%投資しないよね。つまり、どう見られているかが重要なんです。「いい会社」かどうかは周りが決めることであって、会社の人たちが考えることではない気がします。

 

経営者が幸福を感じる瞬間

時津: せっかくなので、この4人に聞いてみたいですね。何をやっているときに「すごくハッピー」と思うのか。どういった時に、「経営者をやっていてよかったな」とか「生まれてよかったな」と思うのかをぜひ共有してもらいたい。

春山: 僕はパウル・クレーという画家の言葉で、「毎日がひとつの人生」というのを掲げているんですが、めっちゃいい言葉だなって思っています。つまり、「今、生きている」ということ自体がマックスなんですよ。今ここに生きている、美味しくごはんを食べられることが幸せ。

その上で、仕事をしていて何に喜びを感じるか、命が震えるか、心がときめくかというと、自分たちが一生懸命つくったプロダクトをユーザーに届けて、そのユーザーに直接お会いして、「ヤマップに命を救われた」、「ヤマップで人生が変わった」と言って本当に喜んでくれる人がいるときですね。そういうときは、自分たちは何かとてつもないことをしているという、慄く感覚を持ちますね。肯定も否定も含めて、そこにブルブルって震えます。

田口: 僕が最初に事業を始めた理由は、貧しい人たちの力になりたいと思ったからなので、心の中では「現場に行きたい」というのが本当の気持ちです。だけど、今は全体へのインパクトを考えたときに、自分一人でやるんじゃなくて、みんなでやってもらったほうがいいと考えて、色んな会社をつくって、僕はその社長たちをサポートする役割になりました。

現場からはどんどん遠のいているので、自分の気持ちとは裏腹に全然違うことをやっているのは事実です。でも、その上で何を喜びと感じるかというと、同じ思いを共有する人たちが苦しみながらも成功していくところですね。「こういう人が増えたら社会は良くなるな」っていう、同志が増えていく喜び。自分も現場に行きたいという気持ちは消えないけど、彼らを支えるという自分の役割に対する納得感はすごくありますね。

時津: 私の今見えている景色からすると、田口さんに似ているなと思いますね。何が一番幸せかというと、社員というか仲間なんですよね。先ほど話した人事のブログを書いている担当者は、最初2,3年営業職だったんですが、成果が上がらずに退職しそうになっていました。その後、ある時期からブログを書くことになって、活躍し始めるわけです。会社が成長しているから、そこに人も張れるし、お金も投資できるし、役職もつくれるじゃないですか。彼はその仕事をしていると目がキラキラしはじめるんですよ。僕はそれを見たときにすごく幸せを感じますね。

ベンチャー企業だからかもしれませんが、成長機会を社員に渡せない社長は辞めた方がいいと私は思っているんですよね。そう思いながらずっと経営しています。自分がどうこうじゃなくて、やっぱり社員がどういう成功体験を会社でできるか、どう甘酸っぱい苦しい経験をできるかを見ているのはすごく楽しいなって思いますね。

新井: ホープの社員さんとミーティングしていてね、こういう発言があったよ。この会社にいて、何が楽しいかという話題になったとき、「経営陣がちゃんと見てくれている」って。「あ、そんなことも見てくれているんだっていうのがすごく嬉しいです」と言っていたんだよね。だから、時津さんの気持ちはちゃんと伝わっていますよ。

 

なぜ経営を続けてこれたのか?

井上: もうあと10分しか時間がないので、何か会場から質問はありますか?

質問者: 今までずっと経営者として続けてこられた理由を教えていただけるでしょうか?

井上: 僕の場合はすごくシンプルです。大体、辛いことが続くと止めるのが人間心理ですけど、それが好きなことだったら、「ま、仕方ないな、好きでやってるし」と思えるんです。できること、やるべきこと、やりたいことの3つが重なることをやりましょうって、スタートアップの世界ではよく言われるんですが、そんなことあるわけないですよね。まず好きなことをやってみる。ただ、それだけだと社会に適合しなくなっていくので、やるべきこととの重なりを見つけていく。そして、やっていくうちにできるようになる。その順番でやっていけば、継続可能なんじゃないかなと自分は思います。

時津: いくつかあるんですが、一つ目は「変化をし続ける」ことを非常に大切にしています。二つ目は、私は自分で自分を褒めることをほとんどしないんですね。自分の心を満足させない状態は常につくっているつもりです。三つ目は、創業して13年になるんですが、「周囲の人に恵まれた」というのは大きいです。

春山: ヤマップの事業は誰にも頼まれずに自分が始めたことです。でも、私利私欲のためにはやっていない。社会に少しでも良いインパクトを与えて、次の世代が楽しくなるようにという純粋な思いで始めたことです。そこに応援してくれる人や仲間が増えていって、今があります。だから、経営者としてその純度をなるべく高めていって、そこに対して一点の曇もない状態に持っていけたら、振り返ったら「続いている」という状態になるものだと思います。それがこれまで続けてこられた理由ですし、これからもそれに対して疑いなく一生懸命やっていこうと思っています。

田口: 一言で、「社会のためにやる」っていうだけだと思います。社会のためにやっていれば仲間が集まるんです。そのためには、どんな社会をつくりたいかをすごくクリアにしてから始めることですね。その絵をちゃんと描かないで中途半端に始めると、途中で止めることになるんです。どんな社会をつくりたいかを明確にしてから始めたら、それは結構大きな絵なのですぐには届かない、でもそれは素敵な絵でもあるので仲間がどんどん集まるんですね。そういう仲間がいると続けられるんですよ。全然、孤独じゃないし、やっていて楽しいですよ。

新井: 違う角度でお話しをしますと、世の中、優秀な人が生き残っているわけではないんですよね。諦めの悪い人が残っているだけですね。それは自分もそうです。僕が諦めたくないのは何かというと、「冷たい金融ではなくて、温かい金融をやりたい」というだけで、「人から愛される金融をやりたい」だけですよ。それは諦められないからやり続けているだけの話であって、優秀だからとかそういう話ではないなと思っています。

はい、それでは時間になりましたのでこれで本日は終了です。4社の福岡の経営者の方々、どうも有難うございました!

井上: 新井さん、どうも有難うございました!

 

著者プロフィール

中村 義之
株式会社YOUTURN代表。地方のアセットを活かして持続可能なライフスタイルとイノベーションを生みだすための起業インフラを創出中。メイン事業はU・Iターン特化の転職エージェント。地方のスタートアップで活躍したい人材募集中。