【はじめに】

2018年3月、福岡のスタートアップ拠点Fukuoka Growth Nextで開催されたイベント、「起業家のようにスタートアップで働く」の記事をお送りします。

イベントの第1部では合同会社THS経営組織研究所代表社員、慶應義塾大学理工学研究科特任教授である小杉俊哉氏による基調講演を開催。「起業家のようにスタートアップで働く」をテーマに、組織の中で自律的に働くことの効用や、志を立てて働くことの意義についてお話し頂きました。

第2部は、小杉氏と1980年生まれの若手起業家「福岡エイティーズ」の起業家2名によるパネルディスカッション。講演内容を受けて、参加者のスタートアップ社員それぞれが自社内でどうしたら起業家のように働けるか、やるべきことと課題について熱い議論が交わされました。

スタートアップといえども企業組織の中で働くメンバーが、なぜ起業家のように働く必要があるのか、また、そのために必要な「自律」のマインドと、会社のリソースを使ってやりたいことを実現するビジョンの立て方など、キャリア構築に大きなヒントとなる内容が満載です。ぜひご覧ください。

 

#1 小杉氏による基調講演「起業家のようにスタートアップで働く」(前編)
#2 小杉氏による基調講演「起業家のようにスタートアップで働く」(後編)
#3 小杉氏×福岡エイティーズのパネルディスカッション

 

▽登壇者情報

2018年3月19日開催

Fukuoka Growth Nextによるスタートアップ育成プログラムとの連携セミナー『起業家のようにスタートアップで働く』

 

(スピーカー)
小杉 俊哉氏
合同会社THS経営組織研究所代表社員
/慶應義塾大学理工学研究科特任教授

田口 一成氏
株式会社ボーダレス・ジャパン
代表取締役社長

井上 和久氏
株式会社グッドラックスリー
代表取締役社長

 

(イベント参加者)

福岡エイティーズ4社の社員
株式会社ホープ
株式会社ボーダレス・ジャパン
株式会社ヤマップ
株式会社グッドラックスリー

 

#1 小杉俊哉氏による基調講演「起業家のようにスタートアップで働く」 (前編)

 

起業家とは何か?

小杉  皆さん、こんにちは。小杉です。今日はよろしくお願いします。今回頂いた内容は、「起業家のようにスタートアップで働く」というものです。スタートアップには起業家がいるはずなので、ちょっと変わったテーマに思われるかもしれません。

ところが、創業者とその後に入社したメンバーとでは意外と温度差があって、必ずしもみんな起業家マインドを持っている訳ではないということを、グッドラックスリーの井上さんから伺いました。

今日は普通に企業で起業家のように働くという話をしてほしいということなので、大企業とスタートアップの区別なしに話をしていきたいと思います。

まず、「起業家とは何か?」ですね。起業家とは一体なんでしょうか?どなたか。

参加者 最初に何かを1人で始める人?

小杉 なるほど。他にはどうですか?

参加者 事業を起こす人だと思うんですけれども、志を立ててその夢に向かって走っていくというようなイメージがあります。

小杉 有り難うございます。私が長らくいた慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスは、起業家志向が強いと言われていて、実際に起業している卒業生も多いんですが、多くは普通に大企業に就職しています。

起業を勧める本はたくさん出ていますが、「起業しようかな、どうしようかな」というぐらいの人だったら、起業しないほうがいいですね。なぜなら、過酷だからです。人に言われてやるぐらいだったらやらない方が良いです。

どう過酷かと言うと、例えば、なかなかお金を貸してもらえません。仮に貸してくれたとしても、個人保証をして、失敗したら身ぐるみ剥がされるかもしれませんね。融資でなく投資を受けたとしても、一旦投資を受けるとベンチャーキャピタルから厳しい追及を受けます。

それから、年間360日ぐらい働きます。いつも仕事について考えていなければならない。そして、結果しか評価されません。企業に勤めていたら、結果を生むための行動も評価してくれますが、起業家にはそんなもの関係ないわけですよ。結果しか評価されない、究極の自己責任です。

 

企業内で起業家のように働く意義

小杉 起業というのは過酷なので、多くの人がなかなか手を出せないですね。だったら、これを企業内でやったらいいじゃないかということで書いた本が、『起業家のように企業で働く』です。

これまで大企業の研修やコンサルティング、ベンチャー企業のサポートなどをやってきて、結局どちらにもアントレプレナーシップは必要だと感じました。企業の中で楽しそうに働いている人は、結局起業家のように働いている人なんですよ。企業で起業家のように働くと、最強ではないかということですね。

企業を利用して起業家のように働くことのメリットは、会社のブランドだとか、その他のリソースを活用して自分のやりたいことができることです。それに、会社のためを思ってチャレンジしたことはたとえ失敗しても、クビにはならないですね。毎月、給料が支払われます。会社が赤字でも支払われますよね。これはすごいことで、個人でやると自分がアウトプットした分しか対価は得られません。それから、上司や仕事が合わなくても社内で転職できるし、上司もそのうち異動します。自分で提案して社内で起業することもできますね。

こういったことを言ったのは、私ではなくて、実は神原一光という人です。『会社にいやがれ!』という本を書いたNHKのディレクターです。

彼はどうしたら面白い番組が作れるのか、どうしたら自分のやりたいように働けるのか、毎日ノートにつけていて、様々な失敗、成功を積み重ねて自分なりの持論を作っていたんですね。それをまとめたのがこの『会社にいやがれ!』という本です。

この本で彼が言っていることは、私が言っていることと全く一緒です。つまり彼も会社のブランドやその他のアセットを使って、NHKの中で好きなように自分がやりたいことををやっているという、起業家のように企業で働く人なわけです。非常にいい本ですのでよかったら読んで頂ければと思います。

 

自立して働くことが求められる時代

小杉 「起業家のように企業で働く」とは、つまりどういうことかというと、「自律する」ということです。なぜ自律的に自分のキャリアを自分でつくっていく必要があるのか。端的に言うと、今の時代は企業のトップが答えを持っているとは限らないからです。

これだけ環境が激変する時代の中では、トップであろうと一社員であろうと同じように初めての経験だということです。そうすると一人一人が何をすべきか考える必要があるんですね。

ですから、顧客志向は当然ですし、継続的に自分を高めることは必須です。それから、仮説構築力です。20世紀はノウハウが重要だったんですが、ネット全盛の今では、調べれば分かるノウハウ(KNOW HOW)はすぐに陳腐化します。今の時代に重要になっているのは、KNOW WHATですね。何をやるかを自分で考えるということです。

与えられた問題をいかに解いて正解を出すかではなくて、何が正解か分からない中で問いを立てなければならないんですね。この問いを立てる力が最も重要です。

自分でWHATを考えられない人間は、次第にAIやロボットに置き換えられてしまいます。まして、スタートアップではなおさらですよね。強烈な創業者はいるとは思いますが、やはり社員一人一人が問いを立てることが、自分の価値を高めることにつながる時代だということです。

 

自律とは何か?

小杉 このキャリア自律という概念は、2000年に我々慶應のチームがアメリカから輸入した概念ですが、当時はなかなか大企業に受け入れられませんでした。「社員が自律したら辞めてしまうのでは?」というのが当初の反応でした。

それが今では大企業にとっても「自律」というのは重要なものとして認識されるようになっています。では、そもそも自律とは一体何でしょうか?自律とはどういうものか、答えられる人はいますか?

参加者 自分の考えで自分で行動する、自分に責任を持つ、ということだと思います。

小杉 はい、素晴らしいですね、有り難うございます。

つまり、こういう問いに対して答えられるということですね。「あなたはなぜ今ここにいるんですか?」という問いです。今ここにいるということは、自分で選んで、自分の意思でいるわけですよね。

会社からこのイベントに参加するように言われて来たのかもしれませんが、その指示に従うことも含めて自ら選択しているんですよ。他にも色んな業務命令があると思いますが、本当に嫌だったら会社を辞めることもできるわけです。

皆さんは今日も会社にいることを選んでいるんです。だからこそ自分を裏切らないために仕事にコミットしますよね。

この「ジリツ」という言葉は2つの字が混同して使われるんですが、「自分で立つ」というのは、一人前になるということです。親から自立する、上司から自立する、これは最低限のことですね。

一方で、さらに上の段階、はるかに上の段階が「自律」です。自ら仕事を作り出して自分の責任において行う、結果まで含めて自分に負っているということです。結果まで自分で責任を負うという覚悟でやるのが自律なので、結構重たいことですね。

では、自律の対義語はなんでしょうか?どなたか。

参加者 「他律」でしょうか?

小杉 はい、その通り。「他律」ですね。自分でコントロールするのか、他人がコントロールするのか、ということです。他律を望む人なんていないですが、自律を取らない限り自動的に他律になるんです。自責と他責の関係と同じですね。自責でない限り他責になってしまうんですよ。

そして、自律した意識で働くということが、つまり「起業家のように働く」という意味です。まさにスタートアップの創業者はそういう意識でやっているわけですよね。

20世紀最高の経営者にも選ばれたGEの元CEOジャック・ウェルチが、自律についてこういうことを言っています。80年代まではアメリカ企業のエクセレントカンパニーも、長期雇用・労使協調の日本的経営をやっていたんです。ただ、時代が変わって、そういった経営に変化を起こしたのがジャック・ウェルチのようなチェンジ・リーダーと呼ばれる経営者です。

そこで、ウェルチはこう言ったんです。雇用は守れないよと。ただ、あなた方社員がどこの会社に行っても働ける能力を身につけられるよう、会社は最大限の努力をすると。だから、自分で自律的にやってほしい、と言ったんです。

英語で恐縮ですが、”Control your own destiny, or someone else will.”と言っています。「自分の運命は自分でコントロールしなさい」ということですね。まさに自律のことです。これを社員に求めたわけです。そして、「さもなければ他者にコントロールされますよ」と続きます。

それからもう一つ。”Change, before you have to.”ですね。「変りなさい、あなたが変らざるを得なくなる前に」ということです。環境が変わる前に自分の方から変わっていかなければいけないと言ったんですね。

 

企業の中で志を持って働く

小杉 さて、『起業家のように企業で働く』という本の第1章は、「志を持つ」です。「私はこういう仕事がしたい」、「私は業績を上げたい」というようなことは重要なんですが、それを主張しても協力者はなかなか現れてこないです。

そうではなくて、「私はこの会社を使ってこういうことを世の中で成し遂げたいんです」、「こうやって世の中に貢献したいんです」となると、支援者が現れてくるんです。そして、その思いが実現しやすくなる。これが、起業家のように組織で働くためにまず必要な発想です。

先ほどの本で最初に出てくる野村證券の塩見哲志さんは、こういう志を持っていました。「ベンチャーが次々に世界に羽ばたいていかないと日本の経済の将来は危うい。そのためにも、ベンチャーの登竜門を作りたい」と勝手に考えたんです。

シリコンバレーと日本の環境の一番大きな差は、大企業がベンチャーと付き合わないことです。彼は、大企業とベンチャーを結びつける「モーニングピッチ」というイベントを始めました。モーニングピッチは、今のベンチャーブームの火付け役的存在と言われていますが、野村證券の一社員が仕掛けたんですね。

ところが、当初は、社内でそういう話をすると、「ベンチャーを支援してどうなるんだ」と、ことごとく反対されます。でも彼は諦めないんですね。ネットで知り合った仲間とアライアンスを組み、マスコミを巻き込んで、協力会社を募りました。どんな会社が協力会社になったかというと、オーナー系企業です。

自分が苦労して会社を立ち上げた創業者は、若い人たちが「日本のために何とかしたい」という志を語ると、「よし、じゃあ協力してやろう」と、「うちの名前出していいよ」と、「協力金だすよ」と、応援してくれるんですよね。

そういう活動を続けていくうちに、世の中で注目されるようになります。そうすると、会社の役員たちは「塩見はいいことやってるね」と言い出すわけです。野村證券の批判をしているわけではなく、企業とはそういうものですね。

塩見さんの志は正論ですよね。「日本のためにこれが必要だ」ということを堂々と言うわけです。最初は叩かれるんですが、その正論を通していけば、そのうち認められていく。もしそれが何の価値もないものだったら、無視されるんです。叩かれるということは、何らかのメッセージがあるんですよね。

そして、彼は企業経営の原則を信じているんです。つまり、「企業はもし収益に繋がりそうなビジネスがあれば放っておくはずがない」という原則ですね。それがまだ見えていないときは、まだ役員は判断できない。だから見えるようになるところまで持っていく。そうすれば必ず食いついてくれるはずだということを信じているんです。

これは、念のために言いますと、野村證券だから出来たわけではないです。野村證券なのに出来たんです。周りは一流大学卒の社員ばかりの中で、彼は始業前の時間を使って、勝手にイベントを仕掛けて、そして世の中から注目されるようになって、そのイベントに登壇したベンチャーの中から上場企業が出てくるんですね。上場企業が出てくるということは、野村證券のお客さんになるということです。そうすると会社側はそれを認めるようになります。そういうことを実現したんです。

ちなみに彼はまだ30代前半ですけど、三万人近くいる社員のイベントでパネリストとして登壇するような存在になっています。そして今ではモーニングピッチを卒業して、投資銀行部門に移っています。

 

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著者プロフィール

中村 義之
株式会社YOUTURN代表。地方のアセットを活かして持続可能なライフスタイルとイノベーションを生みだすための起業インフラを創出中。メイン事業はU・Iターン特化の転職エージェント。地方のスタートアップで活躍したい人材募集中。