#2 小杉俊哉氏による基調講演「起業家のようにスタートアップで働く」 (後編)

 

上司の代わりにリスクを取り業績を上げる

小杉 先ほどの塩見さんと組んで、モーニングピッチを大きくしたのが、トーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬さんです。この人は超有名人なのでご存知の方も多いと思います。この人も、トーマツの会計士だったから出来たわけではなくて、トーマツなのに出来たんです。

トーマツという会計事務所は監査法人ですから、監査するのが仕事であって、ベンチャーをサポートすることは会社の目的にならないですね。「ベンチャーがどんどん出てくれば、将来的に会社のお客さんになる」ということを言っても、相手にされないわけですよ。

彼は自分の考えを通すためにどうするかというと、上司に対しては正論で対等に話をするんですが、一方でリスペクトは忘れないんです。そして、上司のインセンティブは何かを考えて行動するんですね。それは業績を上げることとリスクを取らないことなので、自分が色んなプロジェクトを仕掛けては全部成功させて、それを上司の業績にしてあげるんです。失敗したら斎藤が勝手にやったこととして、いつでもクビにしてくださいと。そうすると、上司やその上の役員は、斎藤の言うことを聞いていると良いことがあるぞと思ってくれるんです。

結果的に会社の目的にかなったので、トーマツは、トーマツベンチャーサポートという会社を立ち上げて、ベンチャー支援を斎藤さんに任せることにしたんです。今では200名を超える元会計士やコンサルティングファーム出身者も引き入れて、ベンチャー支援に非常に貢献している組織になっています。

塩見さんも斎藤さんもモーニングピッチを立ち上げたときは20代ですね。20代の若者がベンチャーブームの火付け役になったんです。しかも、誰も別にやらなければいけないことではなかったんです。やらなくてもいいことを会社を使って勝手にやったということですね。

 

全社プロジェクトを若手が率先して実行する

小杉 さて、皆さんはご自身と照らし合わせて、どう感じたでしょうか?この話を大企業で働く人たちに紹介すると、あまりに偉すぎてピンと来ないと言われます。そのときにお話しするのが、パナソニックの濱松誠さんです。

この人は新卒内定者のときに、入社まで何ヶ月も社員と話をしないのは残念だといって、入社前から社員や役員と話をさせて欲しいと人事に働きかけたんです。その後、入社後もずっと社内外の勉強会で人脈作りを行いました。

ちょうどその頃、パナソニック、パナソニック電工、三洋電機などが、1つのグループ会社として統合され、「One Panasonic」のスローガンが掲げられた時期でした。その中で濱松さんは、会社や部門を越えて人脈を作ってコミュニケーションを取り、みんなで勉強して高め合うための活動をやったんですね。

さて、濱松さんはどんな形で会社に貢献していると思いますか?「1つのパナソニックになろう」と社長が直接プロジェクトを起こしたら、社員にはやらされ感や押しつけ感が非常にありますよね。ところが、若手有志がやってくれたら、会社としては有り難いじゃないですか。なので、社長や役員がみんな協力するんですよ。

濱松さんは、今ではパナソニックを越えて、One Japanという活動をしています。

こういう濱松さんのような人がいるパナソニックには、どんなイメージがありますか?とても開かれた会社、社員が自由にできる会社というイメージですね。他の電機メーカーと違うぞと、ものすごくリクルーティングに有利なんですよ。会社のブランドイメージを高めるのに非常に貢献しているんですね。彼もまた、言われてもいないのに勝手にやってるんです。

 

未開拓の新興市場で会社のブランドを上げる

小杉 それから、ソニーの西川さんという方がいます。彼は非常に貧しい国を旅行中に、子どもたちが手作りのサッカーボールを蹴っている光景を見て、4年に1回のワールドカップを見せてあげたいと考えたんです。社内の有志でJICAに働きかけて、会社の費用で、発電自動車、巨大スクリーンを用意して、コートジボワール国内13カ所の1万4千人余りの子供たちにワールドカップの生放送を見せたんです。

会社としては、彼のせいで多大な出費をしたわけですが、彼は会社にどういう貢献をしたと思いますか?世界で最も競技人口が多いスポーツであるサッカーは、世界中が注目しますね。その全てにソニーというブランドが出るんですよ。「さすがソニー」というブランドイメージの向上にすごく貢献していますよね。

これから将来、必ずアフリカの時代が来ます。そのときに、子どもたちはどこの製品を買うでしょうか、ということですよ。そういう貢献の仕方ですね。言われてもいないのに、会社のアセットを勝手に活用して、結果的に会社に貢献したんです。こういう人たちがどの会社にもいるという一例です。

さて皆さんは自社でどうしたら起業家のように働けるでしょうか。研修だったらここでグループで話し合ってもらうんですけど、今日は投げ掛けだけしておきますね。

 

自律した人は最強

小杉 真の意味で自律した人は、一言で言うと最強です。例えば、ニトリの富井さんという法人営業の責任者を紹介したいと思います。

富井さんは私の本『起業家のように企業で働く』を200回以上読んで、コアとなる思考を学び続けたそうです。行動しては読み返して、また行動する。それを何度も繰り返したそうです。これは私の本が素晴らしいと言いたいわけではなくて、多分、何でもいいんですよ。ただ、富井さんは信じたんです。そして、極端に200回も読んだわけですね。

その結果、2年前には担当者だったのが、この本の内容を実践した結果、トップレベルの業績を上げ続けて5段階昇格したんですね。今や社長直轄の法人営業部のトップになって115人の部下を率いています。それぐらい、自律意識を持った人は強いんです。こういう例は他にもたくさんあります。

 

変化し続けるものが生き残る

小杉 皆さんが初めて社会に出たときから、皆さんは変化しているはずですね。新入社員のときと全然変わらない人というのはいないわけですよ。あの頃に比べたら自分も成長したもんだと思いますよね。つまり、成長したということは、変化したということです。変化していれば、どうにでもなる可能性があるんですね。可能性があるということは、つまり変化しているということです。常に変化し続ける、これが何より重要なことです。

これでいいや、と思ったらその人のキャリアはそこで終わってしまうということですね。ダーウィンが「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である。」と言っています。進化論の話ですね。人間も全く一緒ですね。

 

イメージするところまでは実現できる

小杉 「自分がイメージしたところまでは行ける」というお話しをしたいと思います。つまり、絶対そうなるかどうか分からないけど、およそイメージできるぐらいだったらそこまでは行ける、というお話です。最後にご紹介したいのは、社会起業家の小島希世子さんです。熊本から上京して慶應大の湘南藤沢で農業政策を学んでいました。

彼女は横浜中華街に同級生とご飯を食べに行ったときに、街中いたるところでダンボールに寝ているホームレスを見てビックリするんですよ。そして、話しかけるんです。「おじさん、なんでこんなところに寝てるの?」って。色々話を聞くと、彼らは食料やお金が欲しいと言うんです。ということで、毎日食料を届けたり、古雑誌を買いに行ったんですね。そうするとだんだん心を開いてくれて、色んな話をしてくれるようになりました。

私も一時期、横浜中華街にホームレスの友人がいて、よく話を聞きに行っていたんで分かるのですが、彼らの6〜7割は働きたいんですね。しかし、住所も連絡先もない人間は、たとえスーツを着て面接に行っても絶対に採用されないんです。

そこで彼女はピンと来たんです。地方の農地は過疎化して担い手がいない。彼らホームレスは働きたいと言っているんだから、彼らが農業をやればいいじゃないかと。そして、すぐに農水省に行って話をすると、「農地の過疎化は問題だけど、ホームレス問題はうちの管轄じゃない」と追い払われます。厚労省に行ったら、「生活保護の問題は大きいけど、農地問題はうちの管轄じゃない」と追い払われるんです。

だったら自分がやろうと思い立って、彼らに就農訓練をして農地に送り込む活動を始めたわけです。彼女は青年版国民栄誉賞と言われている人間力大賞を去年受賞するんですが、注目を浴びるようになって今では支援者がたくさん増えています。私も彼女とは5〜6年前に出会ったんですが、この話を聞いたら支援せざるを得ないですね。この人はジャンヌ・ダルクだって思ったんですよ。なんでこんなことを一人でやっているんだと。この志に感銘する人たちが増えてきて、だんだんこのような活動が全国に広まりつつあります。

彼女に大学で授業にゲストとして講義をしてもらったときのことです。学生からこんな質問がありました。「何でそんな国家事業みたいなことを出来ると思ったんですか?」そしたら彼女はこう答えたんです。「出来るか出来ないかで考えていたら、自分にはお金もないし能力もないし、出来ないと思っちゃうんですよ。そうではなくて、やるかやらないかでしょう。自分はやると思った。だからやってるんです。」

これがおそらくベンチャースピリット、アントレプレナーシップだと思いますね。まず「やりたい」ということが先にあって、後からどうするか考えるんですね。それが志や使命感を伴っていれば尚強いですね。

彼女は去年快挙を成し遂げて、厚労省と農水省がホームページ上で紹介しているのです。つまり両省を10年かけてくっつけちゃったんです。こんなことですら、ビジョンの力、志の力というものは成し遂げてしまうんです。そんな力を持っているんですね。

 

自分の人生は自分が主役

小杉 自分の人生は自分が主役にならないと面白くないですよね。そう考えると、自分の周りで起こる全てのことが自分ごとのはずなんです。自分が描いたところまでは行けるわけですから、自分の器、能力、チャンスは自分で決めています。また、失敗体験、成功体験をできるだけ多く積むことです。痛い経験をしないと学ばないですからね。

それから、孤独です。チームで何かをやるということも重要ですが、後ろ盾がない中でどれだけ自分一人で決断して行動するかです。つるんで英雄になった人はいないのです。チャレンジしないと自分の才能は分からないですよ。

成功するためには、何か自分自身を超えたこと、先ほどの「日本にとって」とか「会社としてこうすべきだ」とかを考えることが必要ですね。ぜひ会社のミッション、ビジョン、ゴールになるように、個人でも考えてみてはいかがでしょうか。今のたった1時間の話ですけども、何か1つでもみなさんが変化する一歩を踏み出して頂けたらと思います。有り難うございました。

 

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著者プロフィール

中村 義之
株式会社YOUTURN代表。地方のアセットを活かして持続可能なライフスタイルとイノベーションを生みだすための起業インフラを創出中。メイン事業はU・Iターン特化の転職エージェント。地方のスタートアップで活躍したい人材募集中。