東京で上場を果たした経営者たちが福岡に惹かれる理由やメリット・デメリットについて語ったイベント前半。
後半では、各起業家に共通するIPO(上場)経験が価値観に与えた影響はあるのか?実際に移住に必要な準備は?福岡で伸びている事業は?
また、東京との情報格差はあるのか、いかにして解消するのかなど気になる論点に話が及びました。
※この記事は、2018年5月11日に株式会社YOUTURN主催でダイアゴナルラン東京にて行われたイベント『上場を果たした連続起業家が、なぜ福岡に移住するのか?』を元にしています。
IPO後の価値観の変化
高尾 大輔(以下、高尾):皆さんに共通している貴重なご経験として「経営陣としてIPOを経験している」という点があります。それによって価値観や事業に対する考え方が変わったのか、また、今回の福岡移住への意思決定に繋がっているのかについてお聞きしたいと思います。青野さん、いかがでしょうか?
▲左から株式会社YOUTURN 高尾、株式会社エスエルディー元代表 青野氏、株式会社mellow代表取締役 柏谷氏、株式会社YOUTURN代表取締役 中村
青野 玄(以下、青野):価値観は変わっていないと思いますが、再認識というか自覚したことはありますね。私は、目に見えるものとか、目の前の人が喜んでくれないとやる気がでないということです。
上場するぐらいの大きな規模になると、運営している多くの店舗に年間300〜400万人のお客様に来ていただくのですが、そのうち1%にもお会いしません。さらに、飲食業界は人手がかかるビジネスなので、アルバイトスタッフまで含めると1,400人ぐらいの従業員がいたんですね。正社員は270人ぐらいですが、それでも全員に会ったことはありません。
ただ、数字上ではそういう人々がいて、上場後には株主をはじめとしたステークホルダーも増える。そういった状況の中でやらなければならないことは理解しているのですが、全体を見ることができていたときよりは、モチベーションというより義務感、責任感で仕事をするようになりました。
だからといって、これからは小さくまとまるわけではなく、目に見えることを大切にしていきたいと思っています。例えば、会社をつくって大きくなったら、人に任せていって、自分が目に見える範囲内でやるということを自覚していこうと思います。
高尾:その思いが、福岡への移住に繋がるところはありますか?
青野:ありますね。冷静にビジネスチャンスを考えて、というよりは、自分の心が向く方向にまずは行こう、そういう自分の感情を優先するきっかけにはなったと思います。
高尾:そういった感情に正直になったということですね。有り難うございます。では、中村さんはいかがですか?IPO経験で変わった価値観など。
中村 義之(以下、中村):価値観自体はそんなに変わってないですが、仕事に対する向き合い方は変わったかなと思います。前職の会社設立に取締役として参画したのが26歳のときで、まだまだスキルも経験も足りていなかったので、修行のつもりでハードワークを重ねていました。
ただ、上場とほぼ同時に病気になって、一定の達成感は感じたものの、精神的には満足感とか充足感は少なくて、自分を追い込んでいる状態でした。
上場もそうですが、仕事で一つ一つの目標を達成する瞬間は楽しいんですが、その一瞬の喜びを感じるためにその過程の状態を犠牲にしすぎたなと感じています。
なので、その過程をもっと楽しめるようになりたいと思うようになりました。そのためには自分の健康やコンディションが大事です。今後仕事をやっていく上で、そのマインドセット自体は東京で働いても変わらず持ち合わせていたいですが、地方の方が自分の感覚や時間に向き合いやすいかなと思います。感覚ベースですが、時間の流れ方も違いますし。
高尾:目標を達成するために一生懸命頑張っているプロセスがしんどかったら幸福度は低いよねということですね。柏谷さんはいかがですか?
柏谷 泰行(以下、柏谷):変わっていないと思いますね。IPOしたときも特に何の感情の揺れもなかったです。前職で経営していた会社は「次の当たり前になるものづくり」というビジョンが昔から変わらない会社ですし、その中でたくさんの人の支援や賛同を得ながらものづくりをするための当然のステップでした。
新しく株主になってくれた方には、何らかの魅力を感じて株を買ってくれた以上、ファンになってもらいたいと思う新しい感情みたいなのは生まれましたが、特に自分の考え方にはあまり影響はなかったかなと思います。
高尾:ありがとうございます。IPOを経験して、お三方とも口をそろえて変わってはいないという風におっしゃいましたけども、よりご自身の心の向く方向が定まったのかなと、今のお話を聞いて伺えました。
移住する前に必要な準備とは?
高尾:ここからは、会場のみなさんから事前に頂いた質問にお答え頂きたいなと思います。まず、「地方移住する前に準備しておくべきことは?」から伺っていきましょう。柏谷さんは、今移住検討の真っ最中ですよね。
柏谷:そうですね。もうSUUMOという賃貸情報アプリを死ぬほど見て、頑張るぞとモチベーションを上げています。
▲SUUMOを死ぬほど見てモチベーションを上げていたと話し、笑いを誘った柏谷氏(右から二番目)
中村:それがモチベーションなんですね(笑)。
柏谷:モチベーションですね(笑)。準備ということでお話すると、僕らは人を元気にする仕組みをつくって、その結果お金を稼ぐというポリシーを持った会社です。なので、そのインパクトをとにかく追求したいんですよ。
僕らはフードトラックと不動産オーナーさんが持っている空きスペースを繋げて、ランチ難民を解決するビジネスを行っています。福岡でもそのインパクトを出せるように、移住する前に30ヶ所のスペースを獲得したら移住しても良いという許可を経営陣と握っています。
インパクトが出せて、なおかつ好きなことだったらうまくいく確率が高いから、しっかり準備しようと思います。東京の事業をガンガン伸ばしながらも、時折、福岡の不動産オーナーさんとお会いして数字を伸ばし、疲れたらSUUMOを見る、という感じで準備をしています。
高尾:今の柏谷さんのお話は事業家、経営者として事業上のある程度手応えがある状態を作ってから移住するということでしたが、これは経営に限らず例えば副業で福岡に関わってみるなどの助走期間はあってもいいかもしれませんね。
福岡で伸びている事業は?
高尾:では、次に移りましょう。「福岡で今伸びている会社または事業を教えて欲しい」という質問を頂いています。この辺りは中村さんが詳しいかと思いますが、いかがですか?
中村:そうですね、まず1つは、福岡で立ち上がったベンチャー企業で、上場したり大型の資金調達を行ったりする企業が増えています。シード、アーリーの段階を経て事業規模が拡大し、バリュエーションも上がっている印象ですね。業界でいうとやはりITが多いです。
一方で、僕個人が注目している分野のお話をすると、やはり福岡といえども地方都市なので、課題先進国たる日本の中で、地方で事業を起こす起業家は直接課題と向き合っているケースが多いなと感じています。
例えば、介護事業のスタートアップで介護問題や地方における若者やシングルマザーの雇用を解決しようとしている起業家。過疎地域で学習塾に通えない子どもたちに空き家とリタイアシニアを活用して学習機会を提供している起業家。独居老人や老老介護の問題を、訪問服薬指導の機能を持つ薬局で解決しようとしている起業家。
あまりこういった起業家は東京では目立たたないですが、福岡規模の地方都市では社会課題が目の前にあって、それを解決するために起業したというケースが多くて面白いし、応援したいと思っています。こういった情熱を持った社会性の強い地方のベンチャー企業に東京でスキルや経験を積んだ方が参画することで一気にスケールしたらすごく面白いなと思います。
高尾:会社の中でCOOや右腕人材として参画するということですね。
中村:そうですね。社会的意義があって働くやり甲斐を感じられると思いますし、また、その事業を伸ばすことができたら経済的リターンも得られるフェイズだと思うので、すごくチャレンジングで面白いなと。
海外の可能性
高尾:では、次の質問です。海外の可能性について聞いてみたいという方がいらっしゃいます。福岡の立地としてアジアが近いということがありますが、起業家の視点で海外展開についてどうお考えかコメントを頂けたらと思います。
青野:私は前職でシンガポールに子会社を作って失敗した経験があるので、人のことは言えないのですが、もし海外でのビジネス展開を考えるなら、海外に出ていったほうが良いと思います。福岡も海外へのアクセスは非常に良いので、海外への選択肢がなくなる都市ではないと思いますが、福岡にいたほうが東京よりも海外に行きやすいということはないと思います。
▲株式会社エスエルディー元代表 青野氏(左)
柏谷:全く同じ意見です。僕も前職でサンフランシスコに子会社をつくって、5年経営して一応黒字化までしたのですが、日本の子会社なんて相手にされないので、本当に厳しい世界です。なので、東京と福岡のアジアとの距離の違いで海外のビジネスがプラスになるほど甘いものではないです。ただ、地理的にアジアが近いことによって、すぐに「アジア展開しよう」という会話になりやすいというマインド面での影響はあると思います。地理的に近いからうまくいくほど、各地域でビジネスをやるのは簡単ではないですね。
東京と福岡の情報格差
高尾:今、物理的距離のお話がありましたが、福岡に移住しちゃうと、東京ほど情報が入ってこないんじゃないかという質問が入っています。情報の格差があるのかないのか、それについてはいかがでしょうか?
青野:僕の前職の事業は若者向けのB2Cの飲食サービスや音楽のイベントだったので、トレンドが大事な事業です。そのトレンドを創る人がまだまだ圧倒的に東京に多いので、そういったトレンドの種に日常的に接する機会を絶ってしまうと、感覚が消えてしまうかもしれません。
高尾:そこを大事にするのであれば、やはり行き来してトレンドに触れ続けることは必要だと感じておられるんですね。
青野:そうですね。ただ、福岡でしか会えない人もいっぱいいるので、一概にどちらが良いかとは言えないかもしれません。
高尾:柏谷さんは今はまだ東京の比率が高いと思うんですが、情報の差という観点で何かお考えはありますか?
柏谷:その観点でお話すると、東京はもはや情報を得る上でいい場所だとは思っていないですね。リテールだったら上海、不動産だったらテルアビブに行って情報を得たほうが良いです。どのカテゴリにおいても東京がトップというわけではないですよね。どこか一つの地域に居続ける時点で世界との情報格差は起きてしまうので、どこにいても自分が会いたいと思う人に会ってもらえるだけの自分の価値をちゃんと高めたり、なぜ会いたいと思っているかをしっかり伝えたりすることは、やり続けなければいけないと思っています。
中村:自分が得たい情報によってどこに身をおくべきかが変わりますね。例えば、僕は福岡で農業も行っているのですが、農業の情報やネットワークは、東京にいるよりも地方にいたほうがアクセスしやすいです。そういう意味では、農業を志している人にとっては、東京にいるほうがデメリットかもしれません。
だから、自分がどんな目的を持っているかによって、必要な情報と最適な環境が変わるので、それを踏まえて東京がベストな人は東京にいればいいし、地方が良い人は地方に行けばいいと思います。
▲参加者は各起業家たちの話を真剣に聞き入っていた
参加者へのメッセージ
高尾:では最後に、今日お集まり頂いた方は将来的に福岡への移住を視野に入れている方が多いと思いますので、お三方からそれぞれメッセージを頂けますか?
青野:福岡は東京と比べて特に劣るものが少ないですし、見方によっては東京にはない自然やコミュニティとのつながりなど色々な魅力を持っている街だと思います。最初は観光からでもいいので、これを機にぜひ福岡に足を運んで頂けると嬉しく思います。
柏谷:移住に失敗しても死ぬわけではないですし、移住を希望している方は移住してみたらいいんじゃないかなと思います(笑)
中村:今回、移住というテーマでイベントを開催させていただきましたが、移住はあくまでも目的ではなくて手段だと思っています。地方には課題がたくさんありますし、一方で自然やコミュニティがあって、且つ、生活コストや起業のコストが低い環境です。チャレンジすれば周りが応援してくれますし、そういった環境が幸福感をもたらすことは大いにあると思います。そういう意味で、東京から場所を変えたら、どんな人生、キャリアを描けるんだろうというヒントにして頂けたら嬉しいなと思います。今日は皆さんお集まり頂いて有り難うございました!
著者プロフィール

- 株式会社YOUTURNは、首都圏でキャリアを積んだビジネスパーソンと、福岡で社会課題の解決に挑む企業とのマッチング事業を展開する会社です。スタートアップ都市として芽吹きつつある福岡のベンチャー企業、地場の優良企業への移住転職で、キャリアアップとQOLの向上を実現してみませんか?