日本全体が働き方改革に取り組み始めてから、早2年半が経過しました。個人が副業、複業など多様な働き方に挑戦するようになったり、仕事以外の時間を有効的に活用したり地域の課題解決を目指して都会から離れたりと、個々に合わせた柔軟なライフスタイルにも注目が集まっています。

そんな流れの中で「地方に移住して新たな生活を始める」といった方もみられるようになりました。

東京から生まれ育った地に戻る「Uターン」、都会から地方に移住する「Iターン」などは、ここ数年でよく耳にするようになったのではないでしょうか。

 

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そこで今回は、2019年2月23日、DIAGONAL RUN TOKYOにて福岡移住&副業をテーマにしたイベントとして「福業会議」を開催。

福岡の企業や街に貢献したいと感じる東京のビジネスパーソンと、東京で経験を積んだ人材を求める福岡の企業とをつなぐ機会を提供することが目的です。

本イベントでは、福岡の企業が自社の魅力と課題をプレゼン。

その後、参加者のみなさんとディスカッションを行なうことで対話を進めていきました。想像をはるかに超える熱気に満ち溢れたイベントの様子を、さっそくレポートしていきます!

 

福岡移住転職のキャリア面談やイベントの参加はこちらから。

 

 

「どうして地方?」移住転職や複業(副業)で地方に関わるチャンスやメリット

まずは、地方移住に関わる事業を展開する、NPO法人ETIC「YOSOMON!」と株式会社YOUTURNのメンバーによるパネルディスカッションから。

最近は移住転職に止まらず、都内の企業で働きながら地方の企業でリモートの副業を行う、なんて事例もあるほど熱い「地方×副業」の関わり方。

それでは、一体副業や移住転職で地方に関わるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。実際のトークを追いかけながらみていきましょう。

 

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▲中村 義之(なかむら よしゆき)株式会社YOUTURN代表

 

中村:福業会議は「東京にいながら地方(福岡)の企業と副業や移住転職などのできる環境や人材のマッチング」のために生まれたイベントです。

まずは、そもそもどうして地方での副業や移住転職が今、注目を集めているのか。高尾さんはどう思いますか?

 

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▲高尾 大輔(たかお だいすけ) 株式会社YOUTURNキャリアコンサルタント

高尾:僕はもともと東京で15年ほど人材紹介に携わっていました。

僕自身も福岡出身なのですが、今後はキャリアのトレンドとして「地方」のキーワードが注目されていくと感じています。その理由としては、東京が自己実現の欲求を満たすための環境になりにくいことが挙げられると考えているんです。

というのも、東京は知っての通り、企業数も多いし優秀な人材が集まる場所。それだけに競争も激しく、自己実現を目指す際のコストがあまりにも大きいんですよね。その分、逆に地方はまだまだ可能性が大きいと思います。

ただし、地方企業が抱える課題は「営業人材がほしい」とか「経理ができる方を」のように必ずしも言語化できているわけではないので活躍の場を探しにくいように思えます。

これから地方との関わり合いを増やしていくのなら、企業が持つ課題を知ることから始める必要があるのかなと。

 

中村:地方のほうが、東京に比べると自己実現しやすい環境だ、と。

ちなみに、コストの話が出ましたが、基本的には「時間や能力としてのコスト」という認識が正しいですか? それとも、金銭的コストの意味も含まれるのでしょうか?

 

高尾:両方ですね。金銭的なコストも大いにあると思いますよ。

たとえば、都心は家賃や食費が高くつきやすいですから。かといって、都心から少し離れた場所に住むと、家賃は下がりますが、その分通勤時間が余計にかかってしまい、それに伴うストレスも大きくなりますしね。

 

中村:そうですね。それでは、伊藤さんが考える地方で副業を行うメリットはなんでしょうか。

 

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■伊藤 順平(いとう じゅんぺい) NPO法人ETIC「YOSOMON!」事業責任者

伊藤:よろしくお願いします。僕は生まれも育ちも東京なので、地方や福岡に強い思い入れがあるとは言い切れません。

ただ、日頃からさまざまな方のキャリア相談を受ける中で、もっと手触り感のある仕事に関わりたいと思っている方が多いことに気がついて。

とくに、東日本大震災の後くらいから、自分の生きがいについて考える方が増えたように思います。自分のポテンシャルをフルに発揮できる場所を探したい。そのための環境として、地方企業での活躍や副業の選択肢を見出した方が多いのではないでしょうか。

 

中村:たしかに、地方では自分の仕事に対する手触りがありますよね。

東京の企業は、規模が大きいし社員数も多い。そもそも仕事に対する反応やひとりが与える影響が少なかったり、匿名性が大きかったりするので、実感値が少ないように感じます。

あと、地方の企業で話を聞いていてひとつ驚いたことがあるんです。この後にご登場いただく5つの企業にヒアリングに伺ったときの話なのですが、どの企業も「福岡の人たちには迷惑かけられないから、自分たちが頑張らないと」と使命感を持っていたんですよね。びっくりしてしまって。

昔、僕は東京の企業で働いていたのですが「都民には迷惑かけられない」と語る方には出会ったことないなと(笑)。

そのくらい、地域貢献に対する意味を強く抱いて働く人が多いのは、地方企業の特徴として挙げられると思います。

 

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中村:ただ、そうは言っても移住そのもののハードルはまだまだ高いですよね。実際に移住するとなると、どのような課題があるのでしょうか?

 

高尾:そうですね。

ゆくゆくは福岡に関わりたいと感じている方は多いと思うんです。ただ、その気持ちを相談できる場所が少ないようです。

移住支援や転職支援を行う企業はあっても、その両方を担う企業が多くないですからね。また、移住も転職も「いつかは」というぼんやりとした動機のまま相談できないと考える方も多いですね。

実際のキャリア相談を受ける中では、年収の減少をみなさん気にしていますね。人材紹介会社に相談に行くと「3割は減少する」と言われることが多いそうですから。もちろん、必ずしも東京と同様の水準でオファーが出ることばかりではないですが、3割も減少する例ばかりではありませんし、中には年収が上がる方もいらっしゃるのであまり心配しないでほしいです(笑)。

 

伊藤:「副業解禁」と言葉だけは世の中に浸透するけれど、実際どのように解禁していいのかわからない企業も多いですよね。

副業で関わってくださる方の存在はありがたくても、実行のところで動きが止まってしまうのだと思います。

だから、企業からの提案を待つのではなく、働く僕らが積極的に提案できるような環境を作りたいと考えています。課題解決に向けて、どのように関わっていくのか。企業は回答を持っていないので、機会作りと提案の必要性が高まっていると思います。

 

中村:伊藤さんが受ける相談は、どんな内容のものが多いのでしょう?

 

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伊藤:転職検討者の方のご相談だったのですが、人材としての自分の価値がわからないと感じている、とお話をいただいたことがあります。

東京でのさまざまな経験が、地方でどのように活かせるのかわからないと悩んでいらっしゃいましたね。企業の悩みはそれぞれですし、人材側が提供できる価値もそれぞれです。だから、自信を喪失することなく価値を届けられるような環境を作っていきたいと感じています。

 

中村:どんなスキルが活きるのか、なんて決まりきっていないですもんね。東京にはありふれた仕事でも、地方の企業ではとても必要とされている、なんてことだってよくある話です。

 

リソース活用、新規事業展開……企業が抱える悩みを解決するには?

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ディスカッションを終えた後は、今回のメインテーマでもある企業からのプレゼンテーションとディスカッションに移ります。イベント内では出展企業5社からのプレゼンテーションの時間をそれぞれ設けたのち、気になる企業2社を選定してディスカッションを行いました。

本レポートでは、プレゼンテーションとディスカッションをドッキングしてお伝えしていきます。企業の抱える課題と、ディスカッションによって得られた気づき。それらを合わせて見ていきましょう!

 

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プレゼンテーションのトップバッターを飾ったのは、西日本鉄道株式会社です。企業名にある運輸業のみならず多角的に事業を展開する歴史のある大企業として、多くの人々に愛され、利用されています。

西日本鉄道が抱える課題は「今後日本全体に訪れる過疎化に対してどのように対応していくのか」。

鉄道やバスなどの運輸業は、駅やバス停などがあるエリアの人口によって、収益が大きく左右されます。

 

現在は住宅、都市開発、ホテル、国際物流などにも事業を拡大してはいるものの、まだまだ運輸業の売り上げは全体の1/4を占める大きなもの。未来に向けた、新たな価値創造が期待されています。

大企業ならではの多彩なリソースを活かしながらも、地域の人々を第一に考えた事業は、いかにして生まれていくのか。

社会貢献を念頭に置いた「人口減少期において鉄道会社が取り組むべき新サービス・事業」をディスカッションテーマに定めました。

実際のディスカッション内では、居住者を増やす、訪問観光客数を増やすなどを軸にあらゆる事業のヒントが生まれていたようです。

 ・「趣味×シェアハウス」をコンセプトにした住宅を設計する

 ・鉄道の各駅に「象徴」となる存在を生み出す

……など、話題性を重視したアイデアが多数挙がっていたことが印象的でした。

 

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2番手は株式会社西日本新聞社です。

テクノロジーの進化がめまぐるしい昨今、若者を中心に新聞離れが起きています。これまでは家庭に1紙はあった新聞も契約を取りやめるケースが増えているのです。

九州でナンバーワンの発行部数を誇る西日本新聞社でも、同様の悩みを抱えている模様。

現在はその状況を打破するべく、新規事業開発を行う専門部署とデジタル領域を担うグループ会社が連携。ITやデジタルの力で、新聞社だからこそ届けられる一次情報の提供を目指しています。

そんな西日本新聞社がディスカッションテーマに定めたのは「自社アセットを利活用した新しい事業展開について」。

 

西日本新聞社では、老舗の移動販売の豆腐屋さんを買収した実績がありますが、実際のアセット活用はまだまだ検証段階とのこと。

そこで、リソース活用や事業展開のヒントを参加者とのディスカッションテーマに設定しました。

ディスカッションの中では、情報発信、コンテンツ制作、デリバリーなど新聞社の特徴を活かしたさまざまなアイデアが飛び交います。子ども目線のメディア展開、スクール事業、旅行代理店、企業の相談窓口など。制約がある中でも、対話を重ねていく中でアイデアが洗練されていく光景が多く見られました。

 

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3社目は嘉穂無線ホールディングス株式会社。

企業名からはなかなか連想が難しいですが、九州エリアを中心に展開するホームセンター「グッデイ」の生みの親として知られています。

創業当時は、ラジオ・アマチュア無線パーツを販売する小売店でしたが、1978年、生活に根ざした「ホームセンター事業」を多角化のひとつとして開始しました。2017年には、これまでの小売で培ったノウハウを生かした、データ活用支援事業をスタート(※)。

※……カホエンタープライズ https://kaho-enterprise.co.jp/

 

創業70年の歴史の中で、ピボットを繰り返して今に至った珍しい歴史を持つ企業なのです。

嘉穂無線ホールディングスがディスカッションテーマとして掲げたのは、ホームセンター「グッデイ」のアセットを有効活用した新規事業やサービスの立案です。

九州のエリアでは知名度の高い店であることや従業員のプロフェッショナリティを受けて、参加者みんなで議論を交わします。

ディスカッション内で挙がった意見は、ホームセンターの豊富なSKU数を活かしたワンストップサービス。

たとえば、ひとり暮らし専用の生活品販売が一例に当たります。ひとつの店舗で日用品のほとんどが揃う。当たり前のようで類を見ないアイデアに「なるほど」「ああ〜!」などの声が周囲からも上がりました。

 

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4社目は西部ガス株式会社。

社員自らが「地味な会社なんですよね」と笑いを取る瞬間もありましたが、たしかにガス会社と接点を持てる機会そのものが非常に珍しいものです。

西部ガスでは、エネルギー事業を中心としながらも、飲食事業やレジャー事業にもチャレンジしています。現在では80社の子会社・関係会社を持ち、既存の事業には止まらない活躍を志しているのです。

直近では、不動産事業を展開する企業をTOBによって子会社化、温浴事業やホテル事業への参入など、さらに裾野を広げた事業の展開ぶり。

その背景には、エネルギー事業のみで今後生き延びることは難しいとする、強い危機感があります。

 

今後の展開としては、M&Aによる事業拡大はもちろんのこと、新規投資の多様化も検討。大企業のリソースを活かして九州で活躍する学生ベンチャーやスタートアップへの投資にも挑戦を決めています。

そんな西部ガス。ディスカッションでは、投資分野に着目して「地域貢献に資する、西部ガスが取り組むべき新規投資」について考えました。

テーマの具体性が活きたのか、テーマのみならず投資領域や投資ステージにも対話が及んでいたよう。農業、介護、AI、IoTなど幅広い分野について検討を進めるシーンが幾度も見られました。

 

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最後は株式会社ふくおかフィナンシャルグループ。

福岡、熊本、親和の3つの銀行を傘下に持つ国内最大級の地域金融グループです。これまでの4社とは異なり、グループ企業が少ないことが特徴。規制業種に当たるため、事業の多角化が難しいことが大きな課題です。

そんな中でも、これまでにない新たな金融サービスプラットフォームの構築を目的として誕生した子会社があります。それが、iBankマーケティング株式会社。

既存の銀行には囚われないマネーサービスとして、お金の管理アプリ「Wallet+(ウォレットプラス)」をリリース。金融業界にイノベーションを起こすことを目標に、日々奔走しています。

 

今回ふくおかフィナンシャルグループがディスカッションテーマとして取り上げたのは「今後導入したいと考えるキャッシュレスやポイントサービス」について。

大企業やスタートアップも現在積極的に取り組んでいるテーマとあって、ディスカッションも白熱。既存サービスのメリットやデメリットを出し合いながら新たなアイデアを生み出すため積極的に対話を行う様子が魅力的でした。

 

一過性では終わらせない。ムーブメントを未来につなげる

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パネルディスカッションに始まり、企業ごとのプレゼンテーション、ディスカッションと、計3時間にも及んだ本イベント。終わった頃にはみなさん疲れている……かと思いきや、むしろ活発に交流を続ける姿があちらでもこちらでも見かけられました。

 

福岡や地方と接点を持ちたいと思うものの、なかなかきっかけが見つからない。そんな方々にとって、リアルな声と熱量のある場の存在がとても新鮮で学びの多いものだったようです。

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参加者のみなさんのいきいきとした表情を見ているだけでも、しあわせな気持ちになります……。移住、転職、副業など、一人ひとりに合った関わり方をゆっくりと見つけていただけたら幸いです。

 

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イベント後に行われた交流会では、絶品のケータリングも用意されていました。福岡県糸島からやってきた新鮮な野菜をたっぷり使用したサラダや今が旬のあまおうの甘さがふんわり広がるデザートまで。本当においしかったです。ごちそうさまでした!

 

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今回の「福業会議」は、終始笑顔や笑い声などが絶えない活気ある雰囲気に包まれました。イベント終了後、出展企業のみなさまからは「このムーブメントを次につなげたい」「副業を取り入れる上での新しいステップになった」など、とても熱量の大きいコメントを数々いただいています。

今回は1回目として実験的な要素を交えての開催でしたが、次回に向けてよりイベント内容のレベルアップを図っていきたいと考えています。ぜひご興味のある方は、次回の「福業会議」にもご参加いただけたらうれしいです。
(執筆:鈴木 しの 編集:榮田 佳織 撮影:八島 朱里)
 

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著者プロフィール

YOUTURN編集部
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