“大手商社勤務”といえば「グローバルに活躍するビジネスパーソン」という華々しいイメージを抱く方は多いと思います。
ところが、実際に商社勤務の方の声を聞くと、また違う景色が見えてきます。
明確な専門スキルが見えにくいためか「これだ! と誇れる武器がない」「会社を飛び出したときに、自分には市場価値がないのではないか」と悶々としている方は意外と多いのです。
「商社で築いてきた自分のスキルの棚卸をしたい」「あらためて今後のキャリアを見つめなおしたい」――。
去る某日、「彼らが自身のキャリアを見つめられる一助になれば」とYOUTURNのキャリアコンサルタント・高尾大輔が、特別講義を開催しました。
これまでの経験をもとに考案したキャリア論も交えながら、悩める商社人材たちのスキルとキャリアを紐解き、今後の道筋を明らかにする、高尾。そんな当日の模様を、ここに再現!
商社勤務の方でもそうでなくても、これからのキャリアを考えるには必読です!
※本記事は2018年10月31日、大手商社勤務20~30代の商社パーソン向けに開催した広義を元に構成しています。
実は市場価値が高い「商売を創る力」
「商社で働き続けることに危機感がある――」
参加者の1人が抱いたそんな危機感が、実は、今回の講義企画の発端でした。以前、彼が高尾による「キャリア論」の講義を聞いたとき、「他の商社パーソンにもぜひ伝えたい!」と考え、周囲に声をかけ、自主開催にいたったのだとか。
そして集まった6名の若手商社パーソン。穀物のトレードや化学品を扱っていたり、海外赴任や新規事業に携わっていたりなど、経験やポジションはさまざまでした。
加えて、冒頭の自己紹介の場では「今の仕事の先が見えずに限界を感じている」「やりたくない業務に就いて、辞めたくなる時があった」「いつかは地元に帰りたい」「同業者と話をすることで自身を振り返りたい」など、今の仕事に対する、それぞれの悩みや思いを教えてくれました。
そんな参加者に対して、高尾が質問を投げかけます。
▲株式会社YOUTURN キャリアコンサルタント 高尾大輔
高尾「みなさんに共通するのは商社で経験を積んできたということです。何者でもない真っ白な状態で入社してから、これまで商社で経験を積み上げるなかで、できるようになった、こういう価値が出せるようになったなど、思うところはありますか?」
参加者がそれぞれ話し始めます。
「営業だと先回りや段取り、リスクを察知する力が身についた」
「取引先の担当者の背後に誰がいるのかも考えて意見を伝えるようになったと思う」
「もっとも、これって普通にやっているから特別なスキルなのかわかりません」
対する高尾は「ポイントはまずそこです! 商社パーソンの“段取り力”の高さ」と強調しました。
領域が何であれ、商社には大きな仕事がたくさんあり、それを動かそうとすればするほど、ステークホルダーが増えるのは当然です。
他の業界以上に、たくさんのリスク、言い換えると“地雷”があるということ。つまり、商社の仕事には、先回りをして段取りをする必要がある、というわけです。
高尾「大勢のプレイヤーを集め、リスクに目を光らせながらプロジェクトを前に進める。これは商社パーソンの基本スキルですが、かなりの強みでもあるんです。縦割りの役割分担の中にいたのではこのような能力はつきにくい。商社は商売の全体を見る立ち位置なので、この能力が高まる環境にあると言えます。
つまり、商社パーソン以外ではこの力が鍛えられていない人も意外と多い。皆さんにとっては日常で、それをやらないと仕事にならないので『当たり前でしょう』と捉えがちですが、業界の枠を取り除き広い視野で見ると、誰もができることとは限りません。自身を客観視してみると市場価値が明確になっていきます」
またある参加者は「起業家のように0を1にするようなビジネスはできない。けれど、悩みを抱えるお客さんに対してアプローチをかけ、社内外のリソースを掛け合わせて、利益が出る仕組みをひねり出す。これは今の仕事で身につけたものです」と語りました。
これに対しても、高尾は次のように話します。
高尾「確かに0を1にするのが起業家の特徴かもしれません。けれど、そうした起業家が1を10にできるか、あるいは10を100にできるかというとまた違った能力が必要となってくるんです。『ビジネスを創る』ことと『ビジネスを拡大できる』ことは違うスキルなんですよ。商社が果たしてきた役割がまさにそこ。保有するネットワークやリソース、アセットを駆使して、次のステージに引き上げていくわけですからね。これも商社パーソンの大きな強みです」
一方、別の参加者は「トレーディング業務をしていると、品質面で必ずクレーム処理が発生します。そして火消しに終始する……。輸入商売で英語も話すので格好良く映るかもしれませんが、楽しくもないし興味も持てませんでした。うまく謝って決定的に決裂しないように調整するスキルは身についたと思いますが」と、“商社あるある“ともいえる経験を打ち明けました。
それに対しては、高尾が「やりたくないけれどやらないといけないことはたくさんありますが、ここで身についたスキルもまた見失いがちで、強みとして認識しにくい領域です。不安を持つ相手に共感して怒りの矛先を収めるなど、確実にクレーム処理はうまくなり、これも経験から身につけた能力です。違いませんか?」と問います。
そもそも商社パーソンは、クレーム処理などの後工程まで長いスパンでビジネス全体に関わっているのも特徴。また、商社以外の業界では、売値や売上は知っていても、コストや利益まで把握していない場合も多く見られます。
「これは商社パーソンにとってはありえない話で、みなさん商売の基本である仕入れ値から売価、利益まで分かっているはず。他の業界の方に聞いてみてください。意外と理解していない人もいて驚くと思いますよ。」と高尾。
このように、高尾のガイダンスを通じて商社で培ってきたそれぞれのスキルが明確になってきました。参加者からは「今まで言語化できなかった部分が自覚でき、スッキリしました」という声が。
同じ会社で働き続けるにしろ、転職をするにしても、できること・できないことを把握しておくと、今後のキャリアに対しての筋道がつけやすくなります。まずはそれぞれが自分を知ることで、進むべき道がぼんやりと見え始めたようでした。
商社人材は「OS」が優れている
続いて、高尾は商社人材の能力をパソコンの構造に例えて説明しました。
そもそも商社は、PCで言うところの制御や演算を担う中枢部分であるCPUに相当する“能力の高い人“を採用する。その厳しいスクリーニングを突破してきた商社人材だけに、いずれも処理能力や思考力に長けている、というのは大前提。
さらに商社パーソンが優れていて、他にはない強みとなっているのは「そこに搭載しているOSです」と例えます。
高尾「ここでいうOSとは“コミュニケーション力の高さ“や”人を巻き込む人間力”などいわゆる”仕事を前に進める力”に相当するところ。常に高い目線で多くの人を動かし、何よりリスクをつぶしながらスムーズに業務を遂行させている商社パーソンはこのOSが鍛えられている。アプリケーション(専門知識)だけ強くてもダメなんです」
商社でいうアプリケーションとは、取り扱う商品やサービスの知識、たとえばとうもろこしや化学品などの専門的な知識や市場への理解になるでしょう。しかし、そうした専門スキルを大きな舞台で稼働させるにはいうまでもなく優れた『OS』が必要というわけです。
高尾「求人票を見ると『どういった専門知識があるか』などが問われているように見える。企業は採用の際に、たとえば英語力のような資格や経験など、いわゆるアプリケーションの部分を重視している印象を受けるかもしれません。
しかし違う。30代前半くらいまでの人材に対しては、CPU、OS部分をしっかりと見ている会社が多い。優れたCPU、OSがあれば今後伸びしろがあるとポテンシャルを判断されているとも言えますね。
そして35歳くらいを過ぎると、この優れたOS部分があって当然と期待される。アプリケーションの部分は外部の専門家でも十分に補ってくれる。だからこそ、それをしっかりと活用し、マネジメントしながら仕事を前に動かせる人材が求められるんです。」
そう考えると、目の前のアプリケーションを磨くことばかりに気を向けなくても、「OSを鍛えている」という意識を持つことが、キャリアを積むうえでは極めて大事になことだと気づきます。
マーケティング力や営業力といった職種に紐づくアプリケーションだけではなく、商売や事業など大きなコトを動かすための調整力、人間力……。いわば商社で泥臭く学んできた、こうした人対人のビジネスの勘どころのようなものです。
高尾「『泥臭く』というのも大きなポイントなんです。論理で人は動くと思っている方もいらっしゃいますが、違いますよね。論理だけで人は動かない。世の中には論理だけではなく“情理”もある。そして、商社パーソンのみなさんには、その両輪がすでに磨かれているんですよ」
前半はここまで。後半では、今までの内容を踏まえて、自己実現を図るためのスキームについて触れながら、よりキャリア論を深掘りしていきます!
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著者プロフィール

- 株式会社YOUTURNは、首都圏でキャリアを積んだビジネスパーソンと、福岡で社会課題の解決に挑む企業とのマッチング事業を展開する会社です。スタートアップ都市として芽吹きつつある福岡のベンチャー企業、地場の優良企業への移住転職で、キャリアアップとQOLの向上を実現してみませんか?