ここがスタートアップの登竜門ーー。
「地方の若い才能たちが『起業』することを当たり前にしたい」そんな思いを込め、2019年11月2日、九州の学生に対象を絞りfabbit Global Gateway “ACROS Fukuoka”にて開催された『第6回TORYUMON』。
当日は12:00の開場から20:50の懇親会終了まで、ここでしか実現し得ない起業家・スタートアップ・ベンチャー志望学生必見のコンテンツが目白押し!
『ITで変わる世界』『僕らがスタートアップを選んだワケ』『キャリアとしての「スタートアップ」』『投資家から見る学生起業家』と、IT業界を牽引してきた“大御所”から参加学生に年齢が近い若手起業家まで豪華なゲストスピーカーそろい踏みの各セッションの後は、学生起業家による白熱の『TORYUMONピッチバトル』。
本記事では、大盛況となったイベントのトピックをピックアップしてお伝えします!
学生時代は譲れないものと仲間を見つけてほしい
オープニング後のファーストセッションは、さくらインターネット株式会社フェロー 小笠原 治氏、GMOペパボ株式会社代表取締役社長 佐藤 健太郎氏、株式会社エフルム代表取締役 原口 悠哉氏による『ITで変わる世界』。
約20年前のIT業界の勃興から現在に至るまで業界を牽引してきた小笠原氏、佐藤氏の話をモデレーターの原口氏が引き出します!
▲(左から)株式会社エフルム代表取締役 原口 悠哉氏、さくらインターネット株式会社フェロー 小笠原 治氏、GMOペパボ株式会社代表取締役社長 佐藤 健太郎氏
冒頭、「現在、日本のインターネット人口は約1億人います。20年前の日本のインターネット人口はどれくらいだったと思いますか?」と参加者に問いかけた原口氏。答えは約2,000万人。20年前は現在の1/5程度の方しかネットを使っていなかったことになります。
「20年前というと、その後の20年の道が大体決まった瞬間。『インターネットが広がるよね』と確定した頃ですね。」と語った小笠原氏。
ただ、「99年頃はまだ『インターネットにクレジットカード番号を入力するやつなんてそんなにいるはずがない』とか『ECなんて伸びるわけない』と言われていた時期じゃないですかね。」と小笠原氏は続けます。
「この頃にさくらインターネットの創業、それから2003年にはペパボ(※1)の創業。ちょうどその頃、今生き残っている会社が生まれてきています。」
※1…現GMOペパボ株式会社の前身、有限会社paperboy&co。
99年にはiモードが始まり、5年で約3,000億円の市場をつくりました。
小笠原氏「最初は文字主体のインターネットでした。モバイルでインターネットができるということ自体、異常だったわけで。そこでいろんなサービスが生まれました。」
「起業環境について、この20年でどう変わったとお考えでしょうか?」そう原口氏が問いかけると、佐藤氏が答えます。
「当時、自分はベンチャーを興す、という気持ちもなく“SOHO”みたいな感じで考えてましたね。」
続けて小笠原氏が話します。
「20年前は起業してお金を集めるってすごい大変でした。今、大手企業になったIT会社でも自己資金で始めたというところが実は多いです。いわゆるVCと言われるものもちゃんと存在していませんでした。エンジェル投資家もあまりいなかった。
そういう意味では、調達環境はすごく変わりました。当時は1億円集めたと言ったらすごいリリースでしたね。
それからこうしたシェアオフィスが増えたことにより、起業時の場所に困らなくなったとか。ただ、『起業しやすくなったよね』という人はたくさんいるけれど、心理的ハードルは何も変わっていないはず。逆に環境が良すぎて『できて当たり前だよね』と思われるのは辛そうだなと思う。」
佐藤氏「20年前のこういう系のイベントだと、デジタルと言いつつ『ツールを売っています』というような営業系の人しかいませんでした。福岡には『ネットでサービスを作る』みたいな人たちはいなかったんです。ただ、東京に行くとサービス作っている人たちがいて、『IPOするんだ』と言っていて。
20年前の福岡は全然状況が違ったんですね。情報がないし、そもそもやっている人がいないし。20年して一般化した、というのがあるかと思うが、福岡は行政の方も力を入れてくださっていますし、特殊なケースかなとも思います。」
セッションの最後は「起業においてまず何から始めると良いのか、気をつけるべき点」について。
佐藤氏「会社は続くことが一番重要で、起業はできるがその後続けるのが大変です。最初の1年で世の中の半分の会社はなくなります。20〜30年続くのは1%に満たない。起業するマインドだけだと何もできないので、自分の強いスキルとかこだわりとか『絶対やりたい』みたいなものを持たない限り、起業はできないと思う。そこを見つけるのが最初のステップなのかな。」
小笠原氏「スタートアップと言うと、起業家本人のことを指す人たちが多いんですが、スタートアップというのは、チームのことだと思ってください。
『イノベーションを起こそう』という企業がベンチャー。その中でもド短期に急成長しよう、というのが『スタートアップ』。
1人でスタートアップをしようと思うと、病みます。チームでやってください。続けられる仕組みを伴って始めてほしい。起業家1人の思いつきだと続かない。学生の間に仲間を見つけてほしい。『起業する』は2番目くらい。『チームをつくるんだ』というのが1番目です。」
10代から20代前半の彼らが“若手起業家”になったきっかけ
続いてのセッションは『僕らがスタートアップを選んだワケ』。
モデレーターはTHE BRIDGE(※2)共同創業者兼ブロガーの池田 将氏が務めます。
※2……2018年4月に株式会社PR TIMESが株式会社 THE BRIDGEが運営するITスタートアップニュースメディア「THE BRIDGE」を事業譲受。なお、「THE BRIDGE」は2019年11月に媒体名を「BRIDGE」にリニューアルし、ロゴも変更した。
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000841.000000112.html、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000952.000000112.html)
「24歳で事業を立ち上げた」という株式会社ニューレボ代表取締役社長の長浜 佑樹氏、1997年生まれCynack株式会社代表取締役社長の吉村 啓氏、現在19歳ながらe-sports関連事業を手がける株式会社RATEL代表取締役CEOの吉村 信平氏といった「参加学生に比較的年代が近い」起業家の“リアル”を探ります!
長浜氏「大学卒業と同時にスタートアップを知ってプログラミングを勉強し始めて起業しました。通販をやっている人たちの倉庫内作業で使うようなアプリとウェブのサービスをプロダクトとして提供する会社です。B to BのSaaSですね。福岡で創業して1年ほどして売れるようになりました。」
▲THE BRIDGE共同創業者兼ブロガー 池田 将氏
池田氏の「サービスを始めたきっかけは?」
という問いかけに長浜氏は
「大学の時に倉庫で働いていて、『大変だなー』と思っていたからですね。その頃、西海岸に行ける機会があり影響を受け、やりたいことをITの世界で表現できるようになりたいなと思ったのも大きいですね。」
と答えました。自身が感じていた不便を海外で触れたITで解決できたら、と考え始めたようです。
吉村 啓氏は長浜氏とはまた違ったきっかけで起業しています。
「高校の時に、両角さん(※3)から出資を受けました。AR版のWordPressのような、簡単にARを作れる技術を開発しています。もともと起業したいとは考えていなかった。高校の時にVRでゲームをするサークルをやっていて。ハッカソンに出ることになり、懇親会で両角さんに『投資するよ』と言われ『半ば起業させられた』感が強いですね(笑)。
そのあとは両角さんとメッセンジャーでやり取りしながら『定款作って』『法務局行って』といろいろ教えてもらって、いつの間にか会社ができていたんです。」
※3……F Ventures LLP代表パートナー 両角 将太氏
長浜氏「F Venturesを選んだきっかけはツイッターです。そこから SLUSH(※4)で両角さんに会って、投資を決めてもらいました。SLUSHに行ったのは、『そこに行ったらエンジニアの人いるかなー』と。そしたら、僕の中で衝撃を受けて。事業を立ち上げたのは24歳の誕生日です。」
※4……日本最大級のスタートアップイベント、『SLUSH TOKYO』。リブランディングし、2020年2月からは名称を『BARK』に変更する。
(https://thebridge.jp/2019/11/slush-tokyo-team-rebranded-into-bark)
▲(左から)株式会社ニューレボ代表取締役社長 長浜 佑樹氏、Cynack株式会社代表取締役社長 吉村 啓氏、株式会社RATEL代表取締役CEO 吉村 信平氏
吉村(啓)氏「僕が起業したのは18歳のときで、今22歳ですね。」
吉村(信平)氏「僕は今19歳で『どうしたらe-sportsプレイヤーの価値が上がるのか』みたいなプラットフォームを作っています。F Venturesでインターンさせてもらって、その後起業しました。
F Venturesに出会ったきっかけは、僕は『スプラトゥーン』がとても好きで。
『スプラトゥーン』のオフライン大会をやりたいなーと高校生の時に思って調べると、会場費とかだいたい20万円くらいかかると。
そこから大会の仕組みを調べて、スポンサーからお金が出るようだ。スポンサーってどうやってなってもらえるんだろう。お金持ちの企業だ。お金持っている人は、投資家だ、と思ったんです。そこから、両角さんに行き着いてメッセージを送りました。
すると両角さんに「それって起業というやり方はとれないの?」と言われて。ゲームでご飯食べたくて、ゲームでご飯を食べる1番のきっかけが起業だったんです。」
結果的に起業していた、と語る吉村信平氏。起業のきっかけは三者三様でした。
やりたいことが見つかるまで焦らなくてもいい
続いては、『投資家から見る学生起業家』セッションの様子を抜粋してご紹介。
株式会社サイバーエージェント・キャピタル ヴァイス・プレジデントの北尾 崇氏、ChatWork株式会社 創業者の山本 敏行氏、F Ventures LLP代表パートナーの両角 将太氏といった投資家陣を、株式会社オプト共同創業者の海老根 智仁氏がモデレートしました。
▲(左)株式会社オプト共同創業者 海老根 智仁氏
山本氏「商売を始めたのは高3のとき。小学校の時、貯めていたお金をカツアゲされた経験があり『稼ぎたい』と思っていたからです。当時、PCでモノを売り出したら月20万円稼ぐようになりました。そんな人は高校にいなかったから、怪しまれました(笑)。
大学の時にロサンゼルスに行ったのがきっかけで、創業しました。当時2000年でネットの全盛期だったんです。」
北尾氏「高校生の頃から会社をやりたいというのはずっとありました。自分の親がホテルとかを高知県で経営していたのでそれを見ていたからです。勤めるというより人の上に立つんだという気持ちがあったのかなあ、というのが高校生くらいですね。
大学の頃にビジネスコンテストとかばっかり行くようになって、結果的に良かったと思っています。」
海老根氏「僕はオプトを4人くらいで作ったんですが、学生時代は車が大好きで。車を買うためにお金が必要だったので、塾の経営をしていたんです。
その後社会人時代は、学生時代に勉強しなかったことを後悔していて、資格を取ることに明け暮れて。2-3年経って、何も起こらなかったので『資格を取ること自体には意味がない』と気づきました。資格は意味ありませんね(笑)。
実は、オプト現社長の鉢嶺と出会ったのは、就活時代だったんです。瞬間的に友達になった。『お互い別の道に行っちゃうかもしれないけど、一緒に何か創業できたらいいよね』とその日に約束したんです。それが現実になった。
創業精神はそんなになかったんです。「こいつとやりたい」と一緒にバスに乗る仲間のほうが大事ですね。誰と一緒かが重要です。」
山本氏「『社会のために』などを起業時の動機として掲げる必要があるか、という話があるが、僕は『儲けたい』、『モテたい』、でいいと思いますね。」
北尾氏「そう思います。僕も儲けている先輩が羨ましかったので。」
両角氏「アグリーですね、結構。投資先で成功している人を見ているとそういう野望があると思っています。心を突き動かす欲望があったほうが、途中で諦めない人が多い。
『死なないかどうか』を投資するときに見ているんですが、物理的にでなくその人がもう本当にキャッシュが尽きて、『諦める』とそこで会社が止まる。野望があると次に進める。そういう心がある方がいいと思っています。」
海老根氏「未来の起業家たる彼らが今なすべきことは何でしょう? 僕は、『1つ打ち込めるものを探して、打ち込む。』それか、この我ら4人のうち誰かと仲良くなる、を決めてそうなるとか。」
そう海老根氏が問いかけると、北尾氏が自身の大学時代のエピソードを話しました。
北尾氏「僕は学生の時に、周りに育ててもらったなあという感覚があって。同級生とか同期に育ててもらいました。手法論は時代で変わると思うが、本質はそんなに変わってないんじゃないかなと思います。」
両角氏「いろんなイベントに行くと、『夢持って』とか『夢探そう』とかそういう話がありますよね。でも、20代そこらで夢を探そうと思ってもなかなか難しいと思う。いろんな経験を積んでやっと30代で見つかるっていう人も全然いると思うんですよね。僕もそういう人間でした。
悩みすぎて動かない人も多くて。学生の相談聞いてても『これが怖くて』とか。考えすぎずにやっちゃえばいいのにな、とか思うことがたくさんあるんですよね。
起業家の中には頭のいい起業家とそうでもない起業家2パターンがあると思っていて、僕は自分を後者だと思ってます。そういう人は行動ありき。波がきたらすぐに乗れる準備をずっとやっていると思っていますね。」
両角氏は
「やりたいことがあったら気にせずやりたいことをやってほしいと思っています」
と、会場にエールを送りました。
▲(左から)株式会社オプト共同創業者 海老根 智仁氏、株式会社サイバーエージェント・キャピタル ヴァイス・プレジデント 北尾 崇氏、F Ventures LLP代表パートナー 両角 将太氏、ChatWork株式会社 創業者の山本 敏行氏
焦らず、でも学生時代だからこそできる経験を
豪華ゲスト陣を呼び複数セッション用意して「九州の学生限定」で開催された本イベント。今回の記事ではご紹介しきれなかったセッション、学生ピッチも非常に熱気がありました。
後で振り返ると、「第6回TORYUMONが起業のきっかけ、後押しになった」と答える未来の起業家が出てくるのではないでしょうか。
イベント全体を通して、「学生だからこそできる経験や仲間づくりを」「ただ、やりたいことを見つけるには焦らず」といったメッセージ性も多かったように感じます。
次回TORYUMON、今後の九州のスタートアップシーンがますます楽しみですね!
構成:榮田 佳織 写真提供:F Ventures LLP
著者プロフィール

- 株式会社YOUTURNは、首都圏でキャリアを積んだビジネスパーソンと、福岡で社会課題の解決に挑む企業とのマッチング事業を展開する会社です。スタートアップ都市として芽吹きつつある福岡のベンチャー企業、地場の優良企業への移住転職で、キャリアアップとQOLの向上を実現してみませんか?
この著者の最新記事
私の福岡移住転職2023.09.29テクノロジーとデザインの力で、地方のビジネスを作る面白さ
移住転職キャリアモデル2023.09.08未来の人材ニーズにピタリとはまった。ロールモデルとしての存在感|株式会社ホープ 豊田 利恵さん
私の福岡移住転職2023.08.18「東京に未練はない」直感を信じて福岡へ。今が一番ハッピー
私の福岡移住転職2023.08.04仕事をするなら東京。キャリアのド真ん中で夫婦で福岡へ移住転職した理由