【はじめに】

2018年2月、福岡のスタートアップ拠点Fukuoka Growth Nextで開催されたイベント、「ローカル資本主義 〜 福岡エイティーズが仕掛けるグローカルスタートアップ 〜」の記事をお送りします。

イベントの第1部では鎌倉投信株式会社の創業者である新井和宏氏による基調講演を開催。持続可能な資本主義や、変わりゆくお金の定義をテーマにお話し頂きました。

第2部は、新井氏と1980年生まれの若手起業家「福岡エイティーズ」4名によるパネルディスカッション。エイティーズの起業家達がそれぞれ手がける事業内容や「いい会社」の定義について熱い議論が交わされました。

テクノロジーによって社会・経済の仕組みがどう変わっていくのかについての新井氏による示唆に富む話題や、地方都市から社会を変えようと挑む起業家たちが何を考え、どのような事業を展開しているのか、様々なトピックが満載のイベントです。ぜひご覧ください。

 

#1 鎌倉投信株式会社 新井和宏氏による基調講演(前編)
#2 鎌倉投信株式会社 新井和宏氏による基調講演(後編)
#3 鎌倉投信新井氏×福岡エイティーズ パネルディスカッション(前編)
#4 鎌倉投信新井氏×福岡エイティーズ パネルディスカッション(後編)

 

▽登壇者情報

2018年2月22日開催

Fukuoka Growth Nextによるスタートアップ育成プログラムとの連携セミナー『ローカル資本主義〜福岡エイティーズが仕掛けるグローカルスタートアップ 〜』

 

(スピーカー)

新井 和宏氏
鎌倉投信株式会社
取締役 資産運用部長

時津 孝康氏
株式会社ホープ
代表取締役社長兼CEO

田口 一成氏
株式会社ボーダレス・ジャパン
代表取締役社長

春山 慶彦氏
株式会社ヤマップ
代表取締役

井上 和久氏
株式会社グッドラックスリー
代表取締役社長
 

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#1 鎌倉投信株式会社 新井和宏氏による基調講演(前編)

 

今、鎌倉で起きていること

みなさんこんにちは。鎌倉投信の新井でございます。今日は、鎌倉で今どんなことが起こっているかをお話しさせていただきたいと思います。鎌倉投信の話を織り交ぜていきますが、その話が中心ではありません。

鎌倉では、「鎌倉資本主義」ということが話し合われています。IT企業のカヤックさんが中心になって鎌倉の会社を集めて、「これから僕らは資本主義をどのように考えていかなければいけないか」ということを、鎌倉の建長寺という由緒あるお寺で議論しているんですね。そんな会合が昨年行われたところです。地元鎌倉のお土産で有名な「鳩サブレ」の豊島屋さんという老舗の会社も参加しています。議論の中身をお伝えすることが今日の目的ではないのですが、何が起こっているかというと、「今の資本主義でいいんですか?」ということが盛んに話し合われるようになっているんです。

鎌倉で議論されているのは、鎌倉がどうやったら「豊かになれるのか」、「持続的に発展していけるのか」ということです。やはり鎌倉の中でも高齢者問題など様々な問題が生じています。例えば、鎌倉市内では焼却炉の焼却能力が低すぎて、自分たちのゴミを全部燃やすことができないという問題があります。そういった問題を解決する仕組みづくりなど、僕らにできることを模索しようとしています。まだまだ答えが出る状況ではないですが、検討が始まったということです。

 

持続可能な資本主義とは?

そういった中で、私が考えている「持続可能な資本主義」とは一体何かを、ご披露させて頂きたいと思います。まず、皆さんに考えていただきたいのは、「資本主義がちょっと行き過ぎていませんか?」ということです。本来、人は幸福になるために生きるのであって、お金のために生きるわけではないですね。なのに、なぜかいつの間にかお金が優先されてしまう。「お金を持っている人が幸せなのではないか」と思ってしまう。企業も同じです。本来は理念を優先すべきにもかかわらず、いつの間にか利益が優先されてしまう。

なぜお金や利益が優先されてしまうのか、結論は簡単で、「分かりやすい」からです。お金や利益は、客観性があり、比較可能です。「幸せ」とか「理念」とか、曖昧で数値化できない、比較可能ではない概念に対して、「分かりやすさ」が優先してしまうんです。

どういう状況でその順番が入れ替わるかというと、自分たちの視野が狭くなる時です。例えば、すぐに結果を出さなければならない、効率を追わなければならないような状況です。もしくは、経営がうまくいかず追い込まれた状況で、コロッと優先順位が変わるのです。そうなってしまうと、誰も幸せではないですよね。

確かに、お金や利益は大切です。しかし、それよりも優先順位が大切だと言っているのです。そのバランスを取ることが経営そのものなのです。その優先順位とのバランスを取らないと、誰も幸せではないですし、持続可能でもないですよね。しかし、よく考えてみると、自分たちの活動だけが持続可能であったとしても、それは「持続可能」ではありません。自分たちだけではなく、外部の様々なステークホルダーに対してどう応えるかを考えない限り、「持続可能な仕組み」や「美しいビジネスモデル」はできません。

 

育てることで持続可能になる

環境問題を見れば分かります。私はよく赤珊瑚の話をするんです。中国漁船の赤珊瑚乱獲が問題になったとき、「搾取ではないか」と非難の声があがりました。でも、日本でも赤珊瑚を採っている人はいます。その違いを理解することが大切です。

それは何かと言うと、日本で赤珊瑚を採っている人たちは、赤珊瑚がなくなると困るから、木の間伐と同じで、間引いて成長させます。つまり、育てている訳です。一方、中国漁船は「育てる」という概念がなく、根こそぎ採ってしまい、二度と赤珊瑚が育たない環境になってしまう問題があるのです。「育てる」のか「搾取する」のか、両者の間には基本的な考え方の違いがあります。

持続可能にしていくには、「育てる」という概念がないといけません。それが世の中の言葉でいう「CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)」になる訳です。「共有価値を見いだしていこう」、「お互いがWin Winな関係性になろう」ということがそこで表現されています。

例えば、会社と社員の関係で考えてみましょう。会社が社員を「搾取する」とは、「使い捨て」することです。給料を上げず、会社さえ儲かれば良いわけです。そこに「育てる」という概念はないですね。一方で、社員が働かずに「給料を払え」と権利だけを主張すれば、社員が会社を搾取することになります。そういう関係にしてはいけないですよね。

 

すべてのステークホルダーとWin Winの関係性を持つ

すべてのステークホルダーに対して、どのようなWin Winの関係性をつくっていくかというポリシーを問われる時代になってきました。例えば、取引先を価格だけで選んでいてはダメな時代になってきています。価格だけで選考したら、相手を追い詰めている可能性があります。具体的に例を挙げますと、トヨタグループ全体の経営者たちが長野県の伊那食品に学んで、取引先を価格だけで選ぶのを少しずつ止め始めているんですね。

僕の本でも紹介させて頂いている会社で、新潟にダイニチ工業という石油ファンヒーターの会社があります。石油ファンヒーターは冬しか売れないので、取引先はみんな季節労働者になってしまうんですよ。そうならないために、彼らは毎月一定量を取引先に発注するんです。当然、夏には在庫の山ができるわけです。もちろん、理由があってやっているんですね。季節労働者にせず、通年で仕事を提供する代わりに、「技術を上げてくれ、レベルアップしてくれ。そしたらもっとお金を払うことができる。」ということを取引先に求めているんです。そういうことをやらない限り、差別化はできないですよね。

そこにしっかりした差別化戦略がなければ、ただのキレイごとです。なので、すべてのステークホルダーへの共通価値をどのように考えているかを、僕らは企業に投資する際に重視しています。

 

社会的責任投資は世界的なトレンド

昨年、大きな動きがありました。みなさんの年金を預かって150兆円ほどを運用しているGPIFという団体が、昨年からESG投資というものをスタートしました。「E」は環境、「S」は社会、「G」はガバナンスです。そういったものを大事にする会社を選んで、まず「お試しに1兆円投資する」と言いました。そうしたらもう、企業は目の色を変えて投資の対象になるにはどうすれば良いかを考えるわけですよ。

鎌倉投信は、社会的責任投資の最大級のファンドです。それで、色んな方から声がかかりました。時代は少しずつ変わってきているなと感じますよね。それに、この流れは止められないですよ。

私が前にいた会社でブラックロックという世界最大の資産運用会社は、日本のGDP約5兆ドルを超える6兆ドルを運用しているのですが、その会社のCEOが日本の有力企業約400社に向けて書簡を送りました。どんな書簡かというと、「短期的な利益ではなく、長期的な社会との共通価値を見いだしていけるような成長戦略」を勧めるものだったんです。そういう時代の変わり目なんですね。

 

<次へ>お金が変われば社会が変わる 【福岡エイティーズ×鎌倉投信新井氏】 #2

 
 

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著者プロフィール

中村 義之
株式会社YOUTURN創業者。地方のアセットを活かして持続可能なライフスタイルとイノベーションを生みだすための起業インフラを創出中。メイン事業はU・Iターン特化の転職エージェント。地方産業革新の担い手になりたい人材募集中。